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「惚れたら、女はからだごと惚れるのよ」天才詩人を捨てて他の男に走るも、まさかの展開が待っていて…

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目次

アンヌ遙香です。今おすすめしたい映画をフックに今思うことを語る連載で今回は『ゆきてかへらぬ』をクローズアップ。【後編】では三角関係の行方についてさらに語ります。

◀◀◀【前編】を読むにはこちらから◀◀◀

 

▶大文豪が世間を騒がせた「妻譲渡事件」、その驚きの内容とは

文学史における「運命の女」は扱われ方が二極化?

文豪や文化人を取り巻く「女」というのは、とかく「男を振り回すファムファタール(運命の女)」扱いされがちというのが書物や歴史好きの私の印象。

 

例えば谷崎潤一郎と佐藤春夫の間で起きた「細君譲渡事件」なるもの。

昭和5年(1930年)大文豪・谷崎潤一郎が、彼の最初の妻・千代との離婚を関係者に報告しましたが、谷崎は妻を、自分の後輩にあたる詩人・小説家の佐藤春夫に「譲る」とし、「谷崎と佐藤はこれまで通りの交際を続けるから、皆様にもご了解願いたい」などと宣言したという事件がありました。

 

その声明文は、当時新聞を飾るほどの大騒動になったのですが…。背景を知れば知るほど、谷崎潤一郎がとんでもないことをしていた、としか言いようがないのですが、当時の世論は千代への風当たりが強かったそう。

 

そして文化人2人を「手玉に取った」女というのは一体どんな顔をしているのかと、世の中の野次馬心が刺激されてしまった事件になったようです。

 

このように、文化人の間を揺れ動く女性は“ファムファタール”として扱われるか、イマジネーションの源泉としての女神や聖母のように扱われるか、という極端な二極化を見せる傾向があります。

 

二人の男性の間で揺れ動くうちに…

『ゆきてかへらぬ』©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 【配給】 キノフィルムズ TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

長谷川泰子の場合は、中原に「我が生活」や「臨終」などといった代表作を生ませたといわれています。文学史、文化史的に見れば、2人の男性に様々な点で強い影響を与えた泰子は女神のような存在として扱われる面もあるかもしれませんが、ただのシンプルな恋がなぜか「女神扱い」。それってどうなのか。

 

私が気になるのは、泰子自身がこの関係性をどう思っていたかというところです。これは恋愛関係や婚姻関係においてありがちなのですが、男性がパートナーを2番目の母親のように扱い始めてしまうという現象は、時折見られる印象がありませんか。

 

生活面でも精神的な面でも、どんな自分でも受け入れてくれる母親のような存在をパートナーに期待してしまい、それに応え続けていた女性側が疲れてしまうというのは、ないことではありません。

中也は泰子に対して古女房のように接して甘え、友達の前で罵倒してみたり、ときには手を挙げてみたりと乱暴に振る舞います。

 

泰子は結婚しているわけでもないのに、このような扱いをされることに納得をしていたのかどうか。そんな中で、ダンディーで知的で、自分を丁寧に扱ってくれる小林秀雄に好意を寄せられれば、異性として純粋に惹かれることも無理はなかったのかもしれません。

 

ついに、三角関係が大きく動きだす!

中也を捨てて小林のもとへ走ったが…

『ゆきてかへらぬ』©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 【配給】 キノフィルムズ TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

彼女は中也を捨てて、小林のもとに走ります。「惚れたら、女はからだごと惚れるのよ」と呟き、小林に飛び込んでいった泰子でしたが、少しずつ繊細な言動が見られ始めた泰子を置いて、小林は奈良へと「逃げ」ます。こうしてこの三角関係は終焉を迎えるわけです。

 

映画の中で、小林は、泰子は「僕と中原中也という2つのつっかい棒がないとやっていけない存在なのだ」というようなことを口にしていましたが…。

こういう時に文学的なことを持ち出して崇高そうなことを言う小林よ!!
あのね、結局重くなっただけなんじゃないの?なんて私は感じてしまいましたけどね。

 

もしかしたら、「中原中也の恋人」としての泰子の存在が眩しく映ったのみで、家の中で黙って自分のことだけを待ち続ける泰子には魅力を感じられなくなったのが本当のところなんじゃないの?!なんて私は見ちゃいましたけどね。

 

とにかく、泰子はだれかの「創造の女神」に祭り上げられるのは不本意だったのではないかと感じました。泰子にとっては、「なんとなく一緒にいる男」の友達として現れた男がとても魅力的で、その彼と両思いだということがわかったから、好きな男のほうに走った、と言う非常にシンプルな恋愛をしていただけだったのではないか、と。

その男2人が、たまたま中原中也と小林秀雄だったということに過ぎなかったのでは、と思うのです。

 

恋愛に文学が絡むと途端に!?

明治大正昭和と、文化人にまつわる恋愛事件は文学や文化の源泉のような形で、神聖視されたり伝説視されたりすることもありますが、実はよくよく考えてみれば、誰かと誰かが恋をして、そしてそれによって誰かが傷ついた、もしくは誰かが幸せになったという非常に単純な構造だったということではないかと思うのです。

 

恋愛は崇高なものに見えて、実は本当にシンプルなもの。ただ「この人と一緒にいたい」「この人に会いたい」その気持ちに全てが凝縮されるものであるはずなのですが、そこに文学だのが絡んでくると急に面倒なものになる不思議。

あなたは泰子の恋をどう見ますか?

 

©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会

ゆきてかへらぬ

TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

【配給】 キノフィルムズ

監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造

出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生ほか

 

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Profile
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院ジェンダー日本美術史修士。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』等担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、TVコメンテーター、タレントとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト/YouTube『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。仏像と犬を愛す。インスタグラム:@aromatherapyanne[/hidefeed]


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この記事のライター

OTONA SALONE|オトナサローネ

女の欲望は おいしく。賢く。美しく。OTONA SALONE(オトナサローネ)は、アラフォー以上の自立した女性を応援するメディアです。精神的にも、そして経済的にも自立した、大人の女のホンネとリアルが満載。力強く人生を愉しむため、わがままな欲望にささる情報をお届けします。[提供:主婦の友社]

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