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集合住宅で生活するということは、言うなれば「赤の他人と一つ屋根の下で暮らす」ということです。そして、生活習慣や考え方が違う人同士が集まると、発生しがちなのが「ご近所トラブル」。
普段見聞きするその手のニュースは深刻なものが多く、そういう事態に巻き込まれずに平和に暮らしたいと誰もが考えると思います。しかし、こればかりは相手があることなので、いつ自分が当事者になるか分かりません。
過去に実際に起こった事例から、どういうことがご近所トラブルの原因になりやすいかを知り、賢く避ける術を身に付けましょう。【連載】賃貸管理のプロが賃貸住宅の困りごとを解決
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですご近所トラブル発生の芽は気付かぬうちに成長している
賃貸管理の仕事を長くしていると、入居者さんからのさまざまな不満を耳にする機会があります。そのなかには、ほかの部屋にお住まいの方に向けたものが少なくありません。この手のご相談を聞いていて感じるのは、深刻なクレームほど「積もり積もったものが何かをきっかけに爆発」というパターンが多いことです。
ほかの部屋にお住まいの方に不満をもっても、その時点では苦情を言うまでに至らないもの。しかしそれが小さなわだかまりとして残り続けます。その後、不満の元となった行動が繰り返されたりエスカレートしたり、さらには別の不満が積み重なったりして、「もう我慢限界!」となるケースが多いのです。
その段階になって私たち管理会社に苦情や相談が来ますが、既に感情がかなりこじれてしまっているので、解決にはとても時間がかかります。不満を言われたほうも「今までも同じように生活していたのに急に言われても困る。もっと前に言ってくれればよかったのに……」と思ってしまいますし、調整に入らなければならない私たち管理会社としても、「こんなに深刻になる前に相談してくれれば……」と思うことが少なくありません。
トラブルが起きやすいタイミングは、ずばり「マンションの環境が変化するとき」ほかの部屋にお住まいの方に不満をもつタイミングは、その賃貸住宅全体を巡る環境に変化があったときだと思います。そしてそれは、「誰か新しい人が引越して来たとき」が一番多いようです。
「郷に入れば郷に従え」ということわざの「郷」は「村里」を示すそうですが、何かの集団がつくられるときには、いつの間にか慣習やルールが生まれるもの。賃貸住宅でも同じように、後から加わってきた人は「それを守って当然」という意識が生まれてしまうのでしょう。
私は、この感情がご近所トラブルの発端として大きいのではないかと思っています。なぜならば、私たちが受ける苦情には「こっちが先に住んでいるのだから新参者が遠慮して当然」という気持ちが垣間見えるからです。裏を返せば引越しをしたときが、ご近所トラブルに巻き込まれないために注意したほうがよいタイミングでもあるということになります。
賃貸住宅にお住まいの方はみんな平等ですが、不要なトラブルに巻き込まれないためにはこういう人間の心理も知っておき、自分の今までの常識とは違う“暗黙のルール”があるかもしれないと、周囲に気を配ることも必要だと思っています。
不満が出ることが多い駐車場。気を付けたほうが良いことって?ご近所トラブルが発生する原因は、騒音やタバコなどの臭い、ペット飼育のマナーなどさまざまですが、特に深刻なトラブルに発展しやすいのが「共用部の使い方」。そして、なかでも多いのが駐車場の使用方法についてです。どんなトラブル原因が多いのかを見ていきたいと思います。
たいていの賃貸住宅の駐車場にはラインが引いてあるため、自分の借りた区画に駐車すれば問題ないと思いがちです。しかしながら、車の大きさやドアの開き方はそれぞれ違い、車を使う頻度や使う目的も人によって違うため、ライン内に駐車していてもトラブルが発生することがあります。
トラブルで多いのは「隣の車の駐車位置のせいで、乗り降りや荷物の出し入れが大変になった」という苦情。長く空いていた隣りのスペースに新しい車が停められるようになったり、さらにその車が大きかったりすると、不満を感じることが多いのです。今までスムーズにできていた乗り降りが急に不便になったと感じるようですが、「お互い様と思ってずっと我慢していたのに、相手がだんだんと自分の出入りが楽なようにこちらにずらして駐車するようになって許せなくなった」と訴えてくる方もいらっしゃいます。
一度気になりだすと毎回確認せずにはいられなくなりイライラが募っていく……。こういう心理がトラブル原因となるのですが、実際に解決のための話し合いをしてみると、苦情を言われている方は特に相手側に寄せているつもりはないことも多いのです。一方は「分かっていてわざとやっていたに違いない」と、もう一方は「いやいや、そんなつもりはないし、そもそもやっていない」というように、水掛け論となりらちがあきません。
こういうトラブルを避けるには、当たり前ではありますが、相手の身になって考えることが大切です。想像力の欠如や、「何も言われないからまあいいか……」という軽い気持ちがご近所との良好な関係を壊してしまうことが多い気がしています。
もしも気になっていることがあれば、相手と顔を合わせたときにあいさつがてら切り出してみたり、勇気がない人は管理会社を通じて相手の意向を確認してみたりしてもよいと思います。相手がまったく気にしていないこともありますし、逆に相手が困っていればトラブルになる前に配慮できたり、管理会社も一緒になって解決方法を考えたりできるのです。
ほかにもある、駐車場で発生する近隣トラブルの種夜間の車のエンジン音も不快に思う人が多いポイントです。ほかの方の居室に面している駐車場を借りていて、遅い時間に車を出し入れすることが多い人は、前向き駐車にしたり長時間アイドリングしたりしないなどの気遣いが必要になります。間取りから寝室と想定される部屋に面している場合には、特に気を付けていただきたいと思います。
そのほか、「自分の借りている駐車場スペースだから」と私物を置いてしまう方が時々いらっしゃいますが、一般的な駐車場では目的外の使用となりますのでやめましょう。また、敷地の端の区画を借りている方なども、「人の通行の邪魔になっていないから」とついやってしまいがちです。
しかし、こういう行動も不快に思う人が案外多く、「見苦しい」、「こちらの区画にはみ出してきている」、「子どもが触るかもしれないので危険」、「工具箱などが置いてあり不審物に見える」、などの苦情につながります。「ちょっとならいいか」で置き始めた私物のせいで、深刻なご近所トラブルにつながることが多いようです。
さらに、駐車場で子どもがボールや小石などで遊んでいると、「車に傷が付きそうなのに親はなぜ注意しないのか」といった苦情や、通路などの空きスペースに頻繁に無断駐車していて迷惑だという苦情も多く寄せられます。
自分がほかの人に不満をもった場合はどうする?自分や家族に対して苦情が来るのも避けたいですが、「他人の行動が目に余る!」という逆の立場になる場合もあります。我慢し続けて怒りが爆発する前に、ぜひ私たち管理会社や大家さんに相談していただきたいと思います。
第三者が間に入れば冷静に話ができますし、双方の事情や言い分が分かった時点で、原因となる行為をやめていただいたり、当事者自身が冷静に解決策を考えられるようになったりすることも多いです。まれに、その行動に悪気がなかったことや、不快に思われた行動の真の理由が分かっただけで、状況には何ら変化がないのに「それなら仕方ない」と気持ちの部分で解決してしまうことすらあります。
退去の立会いのときに「実はずっと不満だったけど我慢していた」と告白されることが時々ありますが、相談してくださっていれば多少なりとも問題解決ができて、より快適に暮らしていただくことができたのではと感じます。それが原因で今回の退去を決意したと言われることもあり、とても残念な気持ちになってしまいます。
深刻なご近所トラブルも、きっかけは本当に些細なことです。日本人特有の「言わずとも察してほしい」文化のせいなのか「波風を立てたくない」「そのうち気が付くかも」とずっと我慢してしまう方が多いために、私たちの耳に入ったときには「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い!」という、本来の原因が解決しただけでは気が済まないという状況にまでなってしまっていることもあります。
賃貸借契約書に書いてあることや入居規則を守り、記載のないことは一般常識に従うというのが真っ当な賃貸住宅暮らしのルールだと思いますが、人の暮らしはさまざまなのでそれだけでは解決できないこともたくさんあるのです。
深刻なご近所トラブルに巻き込まれないためには、他人と自分は違うということを分かった上で、関係を円滑にするために日ごろからあいさつをしたり、ほかの人の暮らしの様子にも関心をもったりすることが大切だと思います。そして、みなさんの隣には、私たち管理会社や大家さんがいるということも、合わせて覚えていてくださいね。
伊部 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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