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共用部なのに、ついつい「自由に使っていい場所」と思ってしまいがちなのがバルコニー。以前この連載で、「避難通路なので邪魔になるところに物を置いてはいけない」という話をしましたが、それ以外にもバルコニーの使い方がトラブルの元になるケースがいっぱいです。実際に発生したクレームの事例から、ご近所トラブルを未然に防ぐ方法を学びましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載です使うも使わないも自由じゃないの? バルコニーの盲点とは
バルコニーは「頻繁に出る」という人と「全く出ない」という人にはっきり分かれます。まずは、「全く出ない」タイプの入居者さんのお部屋で実際に起こったトラブル事例をご紹介します。
台風で大雨が降った日のこと、管理会社の24時間コールセンターに一本の電話がかかってきました。窓から雨の様子を見ようとしたら、バルコニーに大量の水がたまって今にも部屋の床の高さまで届きそうな状況とのこと。このまま水が部屋に入ってきてしまったら大変です。排水不良が起こっていることは間違いないので、急いで建築図面を調べました。すると、そのマンションのバルコニーには、排水ドレン(雨水などを排水する管や溝のこと)が全部屋になく、同じフロアに2カ所だけあることが分かりました。該当するお部屋の方にお電話しましたがつながらなかったため、空室だった隣の部屋から覗いてみることにしました。
なんと、ものすごい量の枯葉とほこりが絡み合って排水ドレンをふさいでいたのです。取り急ぎ、持って行った傘を隔壁版の隙間から突っ込み、柄(え)の部分で詰まっているものをかき出しました。すると、ゴーッ! と勢いよく、そのフロアのバルコニー全体にたまっていた水が流れ出し、床上浸水を防ぐことができました。
翌日、排水ドレンのある部屋の方とお話をすると、バルコニーには入居してから一度も出たことがなく、まさかそんなに枯葉やゴミがたまるとは思っていなかったとのことで、大変驚いていらっしゃいました。
ここまでひどいケースは滅多にありませんが、バルコニーの掃除を怠っている人がいると、雨が降ったときに水がたまり、ゴミやタバコの吸い殻がプカプカと流れてくる、という苦情が時折出てきます。自分の部屋のベランダやバルコニーに排水ドレンがある方は、ときどき掃除をするようにしてくださいね。
晴れた日には布団を干したい! でも、まさかのクレームが……!天気のいい日は「バルコニーに布団を干したい!」という方が多いはず。また、限られたバルコニースペースなので、物干し竿だけでなく、バルコニーの手すり部分を使って、布団を干すという方もいると思います。でも、これが原因でクレームになることがあるのです。
あるとき、「上の部屋の方の布団の干し方が我慢ならない」という内容の電話がかかってきました。「まずは写真を見てほしい」と言われたので見てみると、なんと上階から垂れ下がった毛布が柄もはっきり分かる状態で写っていました。上階の方は毛布を太陽にたくさん当てたいがために、ぎりぎりまで垂らしていたのでしょう。
すぐに上の方にお話をしました。最初はピンと来ていないようでしたが、写真をお見せしたら納得され、下の方に謝罪して事態は収まりました。
干し方に関していうと、布団たたきによる音やほこりもクレームになります。最近では「布団をたたいても意味がない」という説もあり、「布団をたたく」という行為は、人によって常識が大きく違うようです。引越したばかりのときは、周りに住んでいる人の布団の干し方をチェックしてから行うのが無難だと思います。
その他、布団干し自体が禁止されていたり、禁止とまでは行かなくても非常識な行為であると思っている人が多い地域や物件もあります。私の経験では、港区や目黒区などいわゆるおしゃれなエリアに多いルールや慣習のようです。他のエリアから引越してきて布団を干したら、大家さんや近隣の方から「みっともない!」とクレームを言われたという話しも時々聞きます。
布団だけではありません。洗濯物についても過去に一度だけですが「派手な色のTシャツを外から見えるように干すなんて、お宅の管理しているマンションの住人は何を考えているのか!」と、近隣にお住まいの方から怒られたこともあります。
私たち管理会社は、そういった特殊なルールがある賃貸物件に入居する方には事前に説明するようにしています。しかし、説明を受けた本人以外のご家族が、悪気なく布団を干してしまうケースもあります。入居規則はご家族全員で共有するようにしてくださいね。
タバコの煙に、ゴキブリも!? ほかにもあるクレーム事例ほかには、タバコに関するクレームも多いです。煙の臭いが洗濯物や布団につく、煙が換気口から室内に入ってきて迷惑、タバコの吸い殻が隣のバルコニーから転がってくるなど、パターンはさまざま。喫煙者は、隣のバルコニーに洗濯物や布団が干されてないか、赤ちゃんがいるご家族ではないかなどに気を配っておいたほうが無難です。お隣と顔を合わせたときに、「バルコニーでタバコを吸うことがありますが、何か気になることがあれば言ってくださいね」などと声をかけておくのもご近所トラブルを防ぐいい方法です。
その他には、バルコニーに出しているペットの鳥かごから羽が飛んで来て汚いというクレームや、上階の人が植物の水やりをする度に、その水が下階に垂れて迷惑している、などのクレームもきます。段ボールを捨てるのが面倒でバルコニーにためている人がいたときは、段ボールが雨で湿ってゴキブリが大量発生したことも。
引越しのときに処分しきれなかった家具などの不要物を、バルコニーにぎっしり置いていたご家族は、「これではいざと言うときに非難はしごが使えない! 命の危険があるのになんて非常識な家族なんだ!」と上階の方に言われ、引越し早々にもかかわらず、気まずくなって早々に退去されてしまったこともあります。
これまでクレームになりうる事例を挙げてきましたが、クレームを言った方が神経質になりすぎているケースももちろんあります。困ったことがあるときは、ぜひ私たち管理会社に相談してくださいね。
「バルコニーの広さが気に入ってお部屋を決めた」と言われると、私たち管理会社や大家さんはうれしいものですが、実はバルコニーはクレームになりやすい場所です。
それは、バルコニーを大切な空間として使う方もいれば、ごみや不要物の置き場と考える方もいるように、きっと感覚の違いが現れやすい場所だからなのでしょう。「自分の常識と他人の常識は違う」という意識をもつことが、ご近所トラブルを防ぐ第一歩だと、管理会社の仕事をするなかで日々感じています。
伊部 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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