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片付けのプロである「ライフオーガナイザー」として活躍する、かみて理恵子さんは、都心にある46m2、1LDKのマンションで夫妻2人暮らし。郊外にある88m2、2LDKから、現在のコンパクトな住まいへ引越したかみてさんに、ダウンサイズ成功の秘けつをお聞きしました。【連載】狭くても快適に
「家が狭い=理想の暮らしはできない」。そう考えるのが一般的かもしれません。けれどもここで紹介する人たちは、数多くの選択肢のなかから、あえてコンパクトな住まいを選択し、狭くても快適に暮らしています。家族3人+愛犬1匹の4人家族で59m2という狭小スペースに暮らすライフオーガナイザー、さいとうきいが、そのヒミツに迫ります!88m2から46m2!ダウンサイズ成功に導いたのは「造作家具」
結婚して5年目、かみて夫妻が最初に購入したのは、郊外にある低層マンションでした。88m2、3LDKのマンションを2LDKにリフォームした、広々とした家で15年ほど暮らしたそうです。
現在の小さな住まいへ引越してきたのは11年前のこと。コンパクトな物件であれば、いずれは住みたいと考えていた都心のマンションに手が届くと気づいたのがきっかけです。
改めて、「現在の自分たちが暮らす家」に対する優先順位を考えてみたところ、1)利便性が高い立地(都心)、2)駅からの近さ、3)部屋からの眺め、4)使い勝手のよい間取り、そして、5)動線のよさ……と、意外にも「広さ」にこだわりはありませんでした。
いくつかある選択肢のなかから、かみて夫妻が新居に選んだのは都心、それも銀座まで10分とかからない中央区にある46m2、1LDK。以前の住まいに比べると約半分の大きさですが、引越しはスムーズだったのでしょうか?
「たくさんのものを処分しなくてはいけませんでした。当時はライフオーガナイザーの資格をもっていませんでしたし、住まいにゆとりがあったので、使っていないのに“なんとなく持っているもの”も多かったと思います。2LDKでしたが、1部屋は“物置き”状態で使い切れていなかったんですよ」
引越すにあたり、かみてさんはひとつひとつのものと向き合い、本当に大切なものだけを選び取っていきました。
「入居前にものを厳選したものの、備え付けの収納スペースだけでは収まりきらないと感じたんです」というかみてさんは、新居に造作家具を採用することにしました。造作家具とは、部屋や収めるもののサイズに合わせてオリジナル設計した家具のこと。ミリ単位で寸法指定できるため、限られた空間を無駄にすることなく最大限に活用できます。
それでも収まりきらなかったのが、大きなスーツケースや食器、趣味だった手芸に使う毛糸や布地、卒業アルバムや写真など。普段使ってはいないものの、まだ手放す決断がつかないものは、無理に手放さず、トランクルームを借りて収めることにしました。
「大好きなもの」のために「なんとなく持っているもの」を手放す狭い家で暮らすというと、「少ないもので暮らさなくてはいけない」「ものを捨てなくてはいけない」と思い込みがち。けれども、片付けのプロであるかみてさんは「自分が大好きなものまで、無理に手放さなくていい」と話します。
例えばこちらは、かみてさんが愛してやまないバッグの数々。
少しずつ集めていたら、100個以上のコレクションになりました。部屋が狭くなったからといって、見ているだけでウキウキする、持っているだけでうれしくなるものまで手放す必要はないと考え、引越しの際もバッグは処分の対象から外したそうです。
「その代わり、好きでもないのに“なんとなく持っているもの”は積極的に手放しました。なんでもかんでも手放さないといけないと思うと苦しいけれど、大好きなものを持つためという目的があれば、思いのほかスムーズに運ぶものですよ」
都心に引越してきてから、かみてさんの新たな趣味となったのが歌舞伎や文楽の観劇です。そのため、もともと好きだったという着物のコレクションも増えました。専用の家具は場所をとるため持たないと決め、着物はベッド下の引き出しに、帯は備え付けの収納スペースの1段に収めています。
「効率的にものを収納するには、スペースの無駄を徹底的に省くことがポイントです。収めるものに合わせて収納スペースの棚板の数を増やしたり位置を変えたりするだけでも、収納の密度をうんと上げられるから、より多くのものが収まりますよ」というかみてさん。
収納の密度を上げるといっても単に詰め込みすぎると、探すのも大変、出すのも大変、戻すのも大変の三重苦に。収納力だけに注目するのではなく、自分の片付け癖に合った収納の仕組みをつくることで、狭い家でも暮らしやすくなるといいます。
「狭いから●●すべき」という常識を手放して、「好き」を追求かみてさんの趣味は観劇だけではありません。食べるのが好き、料理をするのも大好きというかみてさんのキッチンでも、収納力の高い造作家具が活躍しています。
ダイニングスペースとキッチンを仕切る「壁」の左側は天井までの本棚、右側は食器棚として造作。食器棚は両サイドをガラス張りにして内部に照明を付けることで視界が抜け、圧迫感が抑えられています。
コンパクトなキッチンというと、なるべくものを置かず、色数も抑えて……というのが一般的。けれどもかみてさんは、大好きな料理をするとき、大好きなもの、大好きな色に囲まれていたいと考えました。例えば、冷蔵庫には、旅先で少しずつ集めたマグネットをペタペタ。冷蔵庫を開けるたびに旅の記憶がよみがえり、楽しい気分になれるそうです。
キッチンのテーマカラーは、楽しい気分で料理ができそうな色、料理がおいしく見えそうな色を…と考えて、「赤」をセレクト。シンク背面の造作家具にもテーマカラーを施して、実用性だけでなく「好き」や「楽しい」も追求することにしました。
無理なく暮らしをダウンサイズするには「タイミング」が大切88m2、2LDKから46m2、1LDKへ引越し、都心での暮らしを満喫しているかみて夫妻。同じように、「いずれは都心のコンパクトなマンションで暮らしたい」と考える人は大勢いると思います。けれども、一度大きくなった暮らしをダウンサイズするのは簡単なことではありません。
「ものとの付き合い方は年齢とともに変わってゆきます。自分が無理なく次の暮らしのステージに移れると感じるときがきたら、そのときにできる方法を考えてみてもいいのではないでしょうか? 最近は、わたしたちのような片付けのプロがダウンサイズをお手伝いするケースもよくあります」というかみてさん。
ご自身も、ものに対する考え方が少しずつ変わり、“普段使ってはいないものの、まだ手放す決断がつかないもの”を収めるために借りていたトランクルームを、解約したそうです。
「トランクルームで使っていた収納用品はネット上のフリーマーケット『ジモティー』で、欲しいと言ってくれる人に譲りました。毛糸や布地は『NPO法人JFSA事務局(日本ファイバーリサイクル連帯協議会)』に寄付。手放してもいいと思えた本は『本棚すっきり研究所』へ、残しておきたい本やアルバムなどはスキャン。段ボール2箱分あった衣類も、リサイクルショップに買い取ってもらいました。たいていのものにはリユース、リサイクルする方法があると知ることで、ダウンサイズのストレスが減る場合もありますよ」
同じ場所に長年暮らしていると、好きでもないのに、使ってもいないのに“なんとなく持っているもの”が、少しずつ増えていきます。広い家に住んでいても、狭い家に住んでいても、“今の自分”の価値観でこまめにものと向き合い、“今の自分”に合うものだけを選び取っていくことが大切なのかもしれません。
告白すると……実はわたしも、数年前に「今はまだ手放せない!」と感じたものを箱に詰め、部屋の片隅に追いやったままにしています。かみて邸を訪れ、改めて“今の自分”の価値観で箱のなかを見返してみたいと思いました。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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