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歌ったり楽器を演奏したりすることを趣味にしている人なら、一度くらいは「録音してみたい」と思ったことがあるのではないのでしょうか。録音作業を自宅で行う「宅録」。意外に知られていないその実態と、注意点を紹介します。
宅録機材にはどんなものがある? 楽器店で聞いてきた
以前は自宅で演奏を録音する「宅録」といえば高価な機材が必要でしたが、最近はPC作業だけで完結する「DTM(デスクトップミュージック)」がさかんです。DTMは20年以上も前から存在していましたが、いまは以前とは様変わりし、PCのソフト上でカラオケ伴奏を「打ち込」んで演奏させたり、それを聴きながらマイクや楽器をつないで録音したりすることも手軽にできるようになったといいます。
そんな宅録機材の現状を知るため、新宿東口にある山野楽器 ロックイン新宿 デジタル&エフェクター館に伺いました。営業中の店内で、フロアリーダーの高橋俊明(たかはし・としあき)さんと松森大修(まつもり・だいすけ)さんが機材一つひとつについて教えてくださいました。
自分で演奏した音を録音するのに必要なのは、PCと「オーディオインターフェース」。PCは特別なものではなく、普段使っているものでかまいません。音楽用のソフトをインストールしておく必要がありますが、フリーソフトでもよいとのこと。オーディオインターフェースにはソフトが付属していることが多いので、オーディオインターフェースと、音をモニターする(聴く)ためのイヤフォンもしくはヘッドフォンを用意すれば、すぐに宅録を始めることができます。
オーディオインターフェースは、マイクや楽器をつなぐことでPCにつながり、録音を可能にする機材。PCとはUSBで接続します。つなげるスピーカーや楽器の数、スペックによってさまざまな種類がありますが、安いものはいまでは1万円を切っているそうです。
「マイクだけをつなげて歌うだけならこれで十分。『歌ってみた』動画をアップする人などに人気です。この10年ほどで、録音用機材は利用者が増えてずいぶん値下がりし、入手しやすくなりました」(松森さん)
マイクは「ダイナミックマイク」あるいは「コンデンサーマイク」と呼ばれるものを使います。特に「コンデンサーマイク」は繊細でキレイな音で収音できるので、より録音向けに特化されています。これをつなぐときに使用するケーブルによっても音の質は変わってくるそうです。
レッツ・トライ! 目指す音楽があれば宅録はうまくいく松森さんによれば、宅録で必要なのは「どんな音楽を録音したいのか」という理想をはっきりもつこと。それによって必要なものも変わってきますし、お店のほうでも何をすすめるべきか判断しやすいそうです。
「だいたい10万円くらいあればひと通りの器具はそろいます。マイクやヘッドフォンも高ければよい、というわけではありませんし、すべてを同じメーカーでそろえる必要もありません。最初は低価格のもので試してみてください」
お話を聞いている間も、何人ものお客さんが来店。それぞれ年代や見ている商品が異なり、「宅録」をする人たちの層の厚さが感じられました。いまはデータのやり取りもメールででき、バンドメンバーがそれぞれ自分のパートを録音して送れば、集まらなくても楽曲が完成します。宅録は今後もさらに進化していきそうです。
「ただし、集合住宅などで宅録をすると、時間によっては近所迷惑になってしまいますので、その点には気をつけてください」(松森さん)
宅録をしている人はどんな人?実際に宅録をしている人のお話を聞くために向かったのは、神奈川県の海に近い街。36歳の会社員Mさんは高校時代からギターを始め、大学生のときには軽音楽部に所属、社会人になってからもバンドを継続していたという音楽好きの男性です。現在は一戸建てに妻と2人で暮らしています。Mさんがいちばん音楽に情熱を捧げていた時期は25歳から30歳ごろまで。主にインストゥルメンタルを演奏するバンドを中心に活動していたそうです。
宅録を始めたのは社会人になったころ。「エフェクターを買ったらおまけで簡易宅録ソフトがついてきたので試しに使ってみたところ、自分のPCではうまくいかなかったのです。それで、2万円くらいの初心者用をつい購入してしまいました」(Mさん)。これをきっかけにMさんの宅録生活はどんどん深まっていきますが、特にCDを制作したり、ネット配信をしたりといったことには関心がなかったそうです。
「打ち込みをしたり、フリー素材でサンプリング音源を組み合わせて楽しんだりして、それだけで満足していました。自分1人でできますし、録音すること自体が楽しかったので。作った曲は内輪向けの『分析戦隊アナライザー』とか(笑)それを友人たちに聞かせる程度で十分でした」(Mさん)
「あまり高価な機材は購入したことがありません。ソフトはサンプリング用のシリーズの物を買い、そのほかに『Pro Tools』というソフトのフリー版を使っていました。PCも、アーティストはMacのPCを使っているイメージが強いかもしれましたが、普段と同じWindowsを使っていました」(Mさん)
宅録は「宅録部屋」をつくるのも楽しいMさんは、一戸建て住宅の6畳の部屋を録音用にしていて、窓のガラスに100円ショップで買ってきたフィルムを貼っています。防音用ではなく防寒用のものですが、これがなかなか役に立つとのこと。もちろん防音室には到底及びませんが、数百円でもできる工夫があることにおどろきました。しかも、このシートはキンキンした高音を吸収してくれるのだそうです。
「最近はダンボールの防音室が販売されているようで気になっています。でも、100均のシートもよく役に立ってくれていて便利です。機材も安くなっていますし、宅録は本当に身近になったと思います」(Mさん)
Mさんは「宅録に興味がある人には、とりあえず始めてみてほしいです」と言います。ソフトがあれば音のずれなどを修正してくれるため、生音が完ぺきでなくてもそれなりに仕上がる気軽さがあって、録音は楽しいと教えてくださいました。
Mさんに教わったダンボール製の防音室について後日調べたところ、たしかに防音室としては低価格の8万円台から販売されていました。もっとも、Mさんのように一戸建てに住んでいて、100均のシートで防音できるなら、特別な防音室を購入する必要はないように感じます。しかし手軽にできる宅録の防音は完ぺきではない場合もありますので、ご近所との関係には厳重な注意が必要です。
Mさんにいままで宅録に費やした総額を伺ってみたところ、「コンデンサーマイクやケーブル、ミキサーなど、楽器以外で30万円くらいでしょうか」と教えてくださいました。凝りすぎなければ、宅録は安価で楽しむことができそう。「結婚しましたし、仕事も忙しくなったのでいまは宅録から少し離れていますが、落ち着いたらまた始めたいですね」(Mさん)
「DTM」といえばかつてはオール打ち込み型のイメージで、自宅で歌って演奏して録音まで行うのは困難でした。けれども、現在ではPCを使った宅録事情は進化しており、YouTuberの出現もあり、着実に変わり、敷居も下がってきているようです。
音楽好きな人は試しに一度録音にチャレンジして、自分の表現を発表してみてはいかがでしょうか。ただしその際は、しっかりと防音の工夫をして、近所迷惑にならないようにくれぐれも気をつけてください。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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