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かつては「お父さんの日曜大工」の意味合いが強かったDIY(Do It Yourselfの略)ですが、最近はかなりイメージが変わって来ました。テレビや雑誌でもDIYの特集が組まれるなど、空前のDIYブームと言われています。
また、100円ショップをのぞいて見ると、小さなボトルに入ったカラフルなペンキや、おしゃれな模様のインテリアシート、かわいい壁掛けフックやそれを取り付けるための工具類なども充実していて、若い女性でにぎわっています。この客層を見ても、DIY=お父さんの日曜大工という時代とは明らかに様相が変わっていることが分かりますね。
ただ、DIYが好きな人、やりたい人が増えている一方で、あきらめている人も多いのが今の賃貸住まいの方の状況だと思います。どうすれば賃貸住宅でもDIYができるのか、一緒に考えてみましょう。
DIYを楽しんでいる人は一定数いるようですが、実際にみんながどんなDIYをしているのかが、気になりますよね。昔と違ってSNSが発達している今の時代は、気軽に写真を人に見せることができるため、DIY初心者から上級者まで、いろいろな人がSNS上に自慢の作品の写真をアップしています。
DIYですてきな作品ができたら、同じような趣味の人に見てもらい、共感してもらいたいと思うのかもしれません。Instagramやtwitterだけでなく、RoomClipなどのように自分のお部屋のインテリア写真をみんなと共有することに特化したサイトも出てきており、魅力的なDIYの実例写真がたくさん掲載されています。RoomClipの「DIYする」というカテゴリのページを見てみると、棚や収納を自作している人がかなり多いのが分かります。
また、写真にはコメントが付けられる機能があり、そこには賞賛の言葉だけでなく、「材料はどこで買ったんですか?」「どうやってつくったんですか?」などの質問や、それに対する回答も掲載されており、DIYが好きな人たちの間のコミュニケーションの場になっているようです。
好きなテイスト、サイズのものを思いどおりに、しかも安価につくれるのがDIYの魅力なのでしょう。本格的な家具をDIYする人もいれば、小物を飾るための小さな棚をつくる人もいますが、共通しているのは、100円ショップやホームセンターで購入した安価な材料を使ったDIYが人気という点です。
DIYしたくても、踏み出せないのはなぜ?リクルート住まいカンパニーが2014年4月に実施した「賃貸住宅におけるDIY意向調査」では、現在居住している賃貸住宅でカスタマイズやリフォームを「したいと思ったがあきらめたことがある」と答えた人が18.8%となっており、潜在的ニーズがあることが分かります。
そして、その回答者にあきらめた理由を聞いた項目では、回答が多かった順に「許容範囲が分からない」(50.4%)、「契約上許されないから」(45.4%)「実施費用がもったいないから」(40.4%)「敷金が返ってこなくなるから」(33.3%)となっています。
DIYをやってみたくても、どこまでやって良いのか分からなかったり、退去時の原状回復にどのくらい費用がかかるのか不安だったり、そもそもやってはいけないと思っていたりという理由で、DIYを躊躇(ちゅうちょ)してしまう入居者さんが多いことが分かります。
同社が2014年9月に実施した「リノベーション・DIYに関する意識調査」で、流行に敏感な20代の人がやってみたいと答えたのは「壁にフックやコートハンガーを取り付ける」「壁紙を貼る・ペイントをする」「備え付けの照明器具を交換する」「壁にテープを貼るなどしてデコレーションをする」「壁に棚を取り付ける」といったDIYでした。
こうして見ると「壁に穴を開けたり何かを貼り付けたりするDIY」のニーズが高いことが分かります。確かに原状回復するにはそれなりのお金がかかるケースもありそうで、心配になる気持ちは理解できます。
原状回復ルールの歴史を知ろうそもそも、賃貸住宅の原状回復というルールの根拠はどこにあるのでしょうか。
実は民法598条、616条の解釈により、賃借人は退去時にお部屋に附属させた物を取り除いて借りたときの状態に戻さなければならないとされて来たのです。これを「原状回復義務」と呼んでいますが、これに基づいて退去時の敷金精算を行う際に「どこまで原状回復義務があるのか、その金額はいくらが妥当なのか」についてのトラブルが増えたため、平成10年に当時の建設省(現、国土交通省)が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、改定、再改定を経て一層具体的なルールができているというわけなのです。
「退去時にこういう状態になっていたら入居者負担」というルールが明確になったため、「退去時にお金がかからないようにするためには、室内に手を加えないほうが良い」という風潮へとつながるのは当然のこと。
例えば、壁に好きな絵を掛けたいと思っても、ネジ穴や釘穴は原状回復義務が発生するルールになっているので、「退去時にいくらかかるか不安だから、やらずに我慢しよう」となっているのが現状ではないかと思っています。
賃貸住宅に住んでいる人は、「壁に何もしないDIY」しかできないのでしょうか。
管理会社に長年勤務している私は、必ずしもそうとは思っていません。世の中の大家さんや管理会社のなかには、「物件も古くなっているし、いい人が長く住んでくれるのであれば多少部屋に手を入れてもかまわない」と考えている人も結構いると感じています。そして、「原状回復にさほど費用がかからない、もしくはそのまま残しても問題ないなら、退去時に入居者さんにお金の負担をしてもらわなくても良い」と考える人だっていそうです。しかしそれと同時に、「好き勝手に自由に手を入れられて、取り返しが付かない状態になるのでは」という不安も抱えています。
次の回では、そんな大家さんや管理会社に「どうやったら安心してDIYを許可してもらえるのか」について考えてみたいと思います。
伊部 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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