/
前回は、賃貸住宅でDIYをしたいと思っている入居者さんが、なかなか踏み出せない理由について考えてきました。賃貸住宅でのDIYは、夢のまた夢なのでしょうか? 賃貸住宅でもDIYを可能にする方法があるのかを、一緒に考えてみましょう。【連載】賃貸管理のプロに聞く
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載ですDIYは禁止されていないかも!? 賃貸借契約書をチェックしよう
お部屋を借りている方は、契約のときに賃貸借契約書を交わしていると思います。この賃貸借契約書には、引越してから退去するまでに起こる、いろいろな事柄についての決まりごとが書いてあります。
「賃貸住宅に手を入れる」ことに関して関係ありそうな条文には、どんなものがあるのでしょうか。全国で約20万8000戸の物件を管理しているハウスメイトグループの賃貸借契約書を見てみましょう。
第13条3.乙(賃借人)は、甲(賃貸人)の書面による承諾を得ないで、次に揚げる行為をしてはなりません。[1]本物件の増築・改築・改造又は室内の修理・塗替え・工作を伴う模様替え、…(以下略)第19条4.乙は、甲の承諾を得て行った造作等であっても原状に復する義務を負い、同造作物等を甲に対して買取り請求する事ができません。但し、原状回復に付き甲がこれを希望しない場合は、前段に定める造作等の収去並びに原状に復する義務については免責するものとします。これを見てみると、「大家さんに書面で承諾を取ればDIYは可能で、大家さんがOKであれば原状回復もしなくて良い」と解釈することもできそうですよね。
少なくとも、「DIYなんて絶対ダメ!」と言うわけではないように思えます。ハウスメイトグループの契約書だけが特殊なのではなく、ほかの不動産会社で使用している契約書にも同じような条文があると思います。賃貸住宅に住んでいる方は、お手元の賃貸借契約書の該当箇所を確認してみてください。
そして、実は国土交通省も、2016年にDIY型賃貸借の契約書式例及びガイドブックを公表しています。これは、賃貸住宅でのDIYを推進するにあたっての大家さんや管理会社の不安や、今の契約書の条文のままでは不足している部分を補完するものでもあるのです。
特にガイドブックは図や写真が豊富で分かりやすくまとまっているので、DIYをやってみたい入居者さんは、国交省のホームページから一度ご覧になっておくと良いでしょう。
大家さん、管理会社の承諾を取るにはどうすればいい?では契約書の規定どおり、書面で申請すれば簡単に承諾がもらえるのかというとそうではなく、ここに大きなハードルがいくつかあります。
一つ目のハードルは、大家さんや管理会社の年代問題です。大家さんの平均年齢は入居者さんよりかなり高めなので、DIYがブームになっていても、それを全く知らない方が多いと感じます。そもそもDIYとは何なのかを理解してもらえていないのであれば、話しはなかなか進みませんよね。
そして、大家さんと入居者さんの間を取り持つ役割の私たち管理会社も、大家さんと同じとまでは行かなくとも、DIYをやりたい入居者さんよりは年代が高めなことが多いです。管理会社に相談したとしても、「DIY? 入居者さんが壁に穴を開けるなんてダメですよ」と、大家さんに伝わる前に話しが終わってしまう可能性も十分に考えられます。
二つ目のハードルは、管理会社や大家さんの知識不足です。賃貸住宅を借りている方はあまりご存じないかもしれませんが、実は管理会社は建築・工事にさほど詳しくない場合が多いのです。なぜかと言うと、建物を建てる仕事と建物を管理・仲介していく仕事は全くの別物だからです。退去時にリフォーム工事をするのは管理会社の仕事ですが、われわれが長年行って来たのは「原状回復工事=元に戻す工事」です。
私たち管理会社は、汚れた壁紙を新しく張り替えたり傷ついたフローリングを補修したりするのは得意ですが、普段完成した建物を管理しているため、例えば壁の中の構造については詳しくありません。所有者である大家さんも詳しくない人が多いように感じますが、日ごろから物件管理をしている私たちですらそんな状態ですから、それは仕方がないことだと思います。
賃貸住宅でのDIYを認めてもらうにはわれわれ管理会社が壁の内部構造に詳しくないとどういうことが起こるでしょうか。
入居者さんから「リビングの壁にDIYで棚を取り付けたい」と申請が来た場合、その部分の壁は穴を開けても大丈夫なのか、どういうことに気を付けてもらわなければならないのかが分からないと言うことになります。そうなると、大家さんに代わって承諾もできなければ、大家さんに「承諾しても問題ないと思いますよ」と承諾してもらえるように後押しすることもできません。
ただ、裏を返せば、DIYをやりたい入居者さんは、それらが分かりやすくなるように申請をすれば、承諾される確率が上がるのではないかと思います。
例に挙げたリビングに棚をつけるケースで考えると、
・どんなメーカーのどんな棚を付けたいかを写真等で示す
・棚をどこにつけたいかを間取図や室内写真で示す
・DIYショップに相談済みで、棚の重みに耐えられるような施工方法をきちんと行うことを示す
・万一原状回復する場合にはどんな工事が必要かを示す
というような感じで申請すれば、承諾される確率が上がりそうです。
管理会社経由で大家さんに申請をする場合なら、管理会社が大家さんにそのまま渡せて、簡単に要点を説明できるような形にまとめておくことも大切です。
さすがに新築や築浅では難しいかもしれませんが、築古物件の場合、DIYを承諾することで入居者さんに長く大切にお部屋を使ってもらえるならば、承諾しても良いと考える大家さんや管理会社は少なくないと思います。
実は、既に長く住んでくださっている方や、「長く住むつもりです」という方には、大家さんも管理会社も弱いのです。もし長く住む可能性が低くても、その棚の形やデザインが今のお部屋の雰囲気に合っていて、次の入居者さんにも喜ばれそうだとなれば、原状回復しないで残してもらえるほうが大家さんや管理会社にとってプラスになるかもしれません。要は、大家さんや管理会社がメリットに感じる部分があれば、申請は通りやすくなるのだと思います。
以前入居者の方から「洗面台が古いのでシャンプードレッサー付きに交換したい。半額自己負担するので大家さんに相談してもらえないか?」と言われたことがあります。その方は長く住んでいらしたので、結局大家さんが交換してくださいました。
実はこういう類の話は時々あり、物件×大家さん×入居者さんの組み合わせごとにケースバイケースですが、何かが壊れて機能を失っているという理由以外でも、入居者さんの工事の希望が通る場合があるのです。
この話とDIYが大きく違うのは、専門業者以外の人が施工するという点。どんな施工をするのか、そして、入居者が問題なく施工できるのか、をきちんと伝えることが大切です。お部屋は大切な財産だと認識している管理会社や大家さんに、いかに安心感を抱いてもらえるか。それが賃貸住宅でのDIYを承諾してもらえるポイントのような気がします。
自由で豊かな賃貸住まいをサポートできるように、私たち管理会社も少しずつ建築や工事の勉強を始めています。入居者のみなさんも「こういう住まい方をしたい」という意見をどんどん発信してほしいと思います。賃貸住宅でもDIYできるのがあたりまえになる未来を、一緒につくっていきましょう。
伊部 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団この記事のライター
SUUMO
173
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント