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子どもに虫捕りに行きたいと言われたけれど、自然に詳しくないパパやママは多いことでしょう。うっかり特定外来生物を捕まえて家で飼ったらトラブルになるかも!環境省 外来生物対策室の藤田道男さんに、気をつけたい特定外来生物の虫についてうかがいました。
写真:(一財)自然環境研究センター
ゼミの学生と幼稚園に見学に行ったところ、5歳児クラスの子どもたちがお散歩で見つけたという、写真のカミキリムシがいました。幼稚園の先生方も名前をご存知なく、なんとなく嫌な予感が。調べてみたら、外来生物法という法律で規制されている、特定外来生物の「クビアカツヤカミキリ」でした!ちょうど近隣でクビアカツヤカミキリが増え始めたようで、対処した後も大学構内ではスモモが食われて枯れ始めています。体験談:大阪教育大学教授小崎恭弘先生
――この体験談のように、特定外来生物に気づかないうちに出会うことはよくあると思います。もし特定外来生物の虫と気づかないで捕まえたり、持ち帰って家で飼ったらどうなるんでしょうか?
環境省 外来生物対策室・藤田道男さん(以下、藤田)捕まえてその場ですぐ放すだけなら、規制はありません。ですが、大人でも子どもでも、クビアカツヤカミキリを捕まえて家に持ち帰ってしまったら、知らなかったとしても、外来生物法違反となり、極端な言い方をすれば、「100万円以下の罰金」のおそれがあります(または1年以下の懲役。罰金と懲役のダブルになることも!)。
――うわあ、厳しいんですね!じゃあ、持ち帰ってから家で特定外来生物と気づいたら、急いで生きたまま再び野外に放してしまえばいいんでしょうか……。
藤田再び生きたまま野外に放しても、外来生物法違反として「300万円以下の罰金(もしくは3年以下の懲役、または罰金と懲役の両方)」のおそれがあります!うっかり持ち帰ってから特定外来生物の虫と気づいたら、かわいそうですが、至急、殺虫剤などで殺虫をお願いいたします。かわいそうだからといって逃がすことは、他の生きものに新たな被害をもたらすだけで、結局、他のかわいそうな生きものが増えることになります。
――わざとやってもわざとじゃなくても、対処を間違えると大変なことになるんですね。
藤田ずいぶん厳しい法律だな、と思われるかもしれません。ですが、法律で規制をしているのは、必要があるからです。
例えば特定外来生物として有名なブラックバスも、「身近で釣りたい」という身勝手な理由で密放流し、生息域が拡げられたことがあったんです。ご存知のように、今ではブラックバスは日本全国で増えて、淡水の生態系に大きな影響を及ぼしています。
――そもそも特定外来生物ってどんなもののことを言うんでしょうか。外来生物とは違うんですか?
藤田外来生物は、「人間により、意図的・非意図的に国外から持ち込まれた生物」のことです。
特定外来生物は、外来生物の中でも、「日本の生態系、農林水産業、人の身体・生命に影響があるため、外来生物法という法律で飼育、運搬、販売、輸入などが規制されている生物」のことです。
――「外来生物」というと全部が悪いイメージがありますが、そういうわけじゃないんですね。
藤田ここは大事な点なんですが、すべての外来生物が悪さをするというわけじゃないんです。外来生物といっても、人間にとって有益な生物もあれば、あまり悪さをしないものもいます。たとえば日本人の主食・米を作る稲も、もともと海外から日本に渡ってきた外来生物なんですよ。
――稲も外来生物とは!外来生物といっても色々なものがいるんですね。ちなみに、よく知られている特定外来生物としてはどんなものがいますか?
藤田意図的に日本に持ち込まれたものとしては、アライグマやブラックバス(オオクチバス)があります。非意図的に日本に持ち込まれてしまったものは、国外からのコンテナで運ばれてくるヒアリなどがあげられます。
でも、どの特定外来生物も、来たくて日本に来たわけではありません。その意味では、彼らもかわいそうな「被害者」ですよね。
――クビアカツヤカミキリの体験談のように、虫捕りやアウトドア遊びをしていて特定外来生物の虫に会うこともあると思います。特に注意したい、「危険な」特定外来生物はいますか?
藤田たとえば、セアカゴケグモだと思います。2023年の時点で、ほぼ日本全国で発見されています。脚を含まない体長はメスで0.7~1cmくらいで、穴やすき間に強い糸で不規則な網を張ります。日本では死亡例がありませんが、神経毒を持つので、刺されるとリンパ腫が腫れたり脱力や痛みが続いたりします。ですが、大人しい性質で攻撃性はないので、見かけても触らないようにすれば大丈夫です。
▲セアカゴケグモ写真:環境省
――セアカゴケグモを見つけたら、そっとその場を離れればいいんですね。
藤田そうですね。可能なら、スプレー式殺虫剤で殺虫してください。くれぐれも捕まえるのはやめましょう。
――セアカゴケグモのように危険じゃないけれど、虫捕りしていて遭いやすい昆虫系の特定外来生物にはどんなものがいますか?
藤田発見されていない地域もありますが、昆虫であれば蝶々の中で・アカボシゴマダラカミキリムシの中で・ツヤハダゴマダラカミキリ・クビアカツヤカミキリがまずあげられます。どれも「家に持って帰る(運搬)」「飼育」「遺棄(野外への放出)」をすると、外来生物法違反になるおそれがあります。
――ということは、気づかず飼育していたら、外来生物法違反で罰金や懲役になるおそれがあるんですね。
藤田そうです。「家に持って帰る(運搬)」「飼育」を行うと「100万円以下の罰金」か「1年以下の懲役」に(または罰金と懲役の両方)。「遺棄(野外への放出)」をすると、「300万円以下の罰金」か「3年以下の懲役」(または罰金と懲役の両方)になるおそれがあるので注意してくださいね。
――先ほどあげていただいた昆虫について詳しく教えてください。アカボシゴマダラにはどういう特徴があるんでしょうか?
藤田アカボシゴマダラは大型のタテハチョウです。奄美群島にはもともと奄美亜種が生息しているんですが、特定外来生物になったのは、中国亜種です。身勝手な人が、国内に持ち込んで放す「ゲリラ放蝶」によって増えたと考えられています。今では在来種のゴマダラチョウやオオムラサキと生息場所を競い合っているとされています。
アカボシという名前の通り、翅の下側に赤い斑点が並んでいるのが特徴ですが、春と夏で色合いが変わります。
▲左:夏、右:春写真:(一財)自然環境研究センター
――春は色が薄く白っぽくて、夏になると黒と赤が濃くなるんですね!
藤田特に春は赤い斑点が薄くなっていたり消失しているので、在来種のゴマダラチョウと間違えて捕まえて持ち帰ったり、飼ったり、別の場所で放したりしないように注意してくださいね。なお、その場で捕まえてもその場ですぐ放すだけなら大丈夫です。
▲もともと日本にいたゴマダラチョウ。色合いの違いをチェックして写真:(一財)自然環境研究センター
――体験談にも出てきた、クビアカツヤカミキリのことも知りたいです。幼稚園もあるような市街地にもいるんですね。
藤田街路樹や公園の木にもいます。ウメ、モモなどの果樹の樹木内部を食べて枯らしてしまったり、同様にサクラも枯らしてしまいます。まだ全国に分布してはいないんですが、2024年7月までに茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、徳島県で報告されています。
――見分け方は赤いクビのようなところでしょうか。
藤田そうですね、黒い体に、真っ赤な前胸をしています。北海道だけにいる在来種のジャコウカミキリも前胸は赤いんですが、身体は青~緑青色です。だから「黒い体に赤いクビ」を見つけたら、クビアカツヤカミキリです。
▲体が黒く、頭の真下(前胸)が赤いのでひと目でわかる、クビアカツヤカミキリ写真:(一財)自然環境研究センター
――体験談の写真では、クビアカツヤカミキリが食べている木が木屑だらけになっていました。これも特徴でしょうか?
藤田そうです。幼虫が木屑とフンの混ざったもの(フラスと言います)を木にあけた穴から排出するんです。最初は木の粉っぽいですが、幼虫が大きくなるとうどん状になります。
――ちょっと怖いですね……。人に噛みつくことはないんですか?
藤田人への直接的な被害はありませんが、幼虫が木の内部を食べてしまうため、木にどんどん被害が広がっていきます。
――捕まえても放してしまうと、害はそのままですよね。それでいいんでしょうか?
藤田クビアカツヤカミキリの分布と被害が今以上に広がっていかないように食い止めるため、都道府県や市区町村では対策を実施しています。皆様におかれては、このHPで「いない」となっている市区町村でクビアカツヤカミキリを見つけた場合には、都道府県や市区町村の役所へのご連絡をお願いします。役所には死骸を見せてもいいですし、スマホなどで写真を撮って見せてもいいですね。
――ツヤハダゴマダラカミキリについても教えてください。
藤田ツヤハダゴマダラカミキリと在来種のゴマダラカミキリのわかりやすい違いは、上翅肩部(硬いはねの、つけ根)のザラザラです。
▲左:在来種のゴマダラカミキリ、右:特定外来生物のツヤハダゴマダラカミキリ写真:(C)片岡宏樹
――見た目はそっくりですね!
藤田触るとわかりますよ。それらしい虫を捕まえたら触ってみてください。「硬いはねのつけ根」を爪でカリカリこすって、ザラザラしていたらザイライ(在来)種のゴマダラカミキリ、ツルツルだったら特定外来生物のツヤハダゴマダラカミキリです。6歳になるうちの息子も、自分で捕まえてはカリカリやって「お父さん!これ在来種!」って言ってます(笑)。
ツヤハダゴマダラカミキリはアキニレやカツラ、トチノキ、ヤナギ類などの幹や枝に穴を開けて入り込んで食べ、木を大量に枯らしてしまうことから、2023年に特定外来生物になりました。
――これも捕まえたらすぐその場で放すだけでいいんですか?
藤田ツヤハダゴマダラカミキリも、クビアカツヤカミキリと同じように分布と被害の拡大を食い止めたい特定外来生物です。このHPで「いない」となっている市区町村で見つけたら、クビアカツヤカミキリと同様に都道府県や市区町村の役所へご連絡をお願いします。
――特定外来生物かどうか、触って確認するのはユニークですね。
藤田特定外来生物は悪者!って言われがちですが、こうやって子どもに触ってもらい、在来種か特定外来生物か判断する経験をしてもらったりすると、興味を持ってもらえるようになります。どうして特定外来生物がいると日本の生態系によくないのか、考えるステップアップにもつながりますし、自然や生き物に好奇心が広がるきっかけにもなるんですよ。
――昆虫以外でも、子どもが捕まえて家に持ち帰りやすい特定外来生物はいますよね。覚えておきたい特定外来生物がいたら教えてください。
藤田アメリカザリガニとアカミミガメですね。どちらも2023年6月から条件付特定外来生物に指定されたんです。
▲アメリカアザリガニ写真:(一財)自然環境研究センター
▲アカミミガメ写真:(一財)自然環境研究センター
――アメリカザリガニは小川とかにいて、ザリガニ釣りなどで身近に感じている人も多いですよね。それが外来生物法の規制対象になったんですか?
藤田野外にいる赤いザリガニは、アメリカザリガニの成体です。おっしゃる通り、おなじみの生きものですね。アカミミガメも屋台で小さい「ミドリガメ」としてよく売っていて、大きくなって野外に放されたのが川や池にたくさんいます。どちらも「条件付特定外来生物」なので、法律上やっていいこととダメなことが単なる「特定外来生物」と違うんですよ。
――「やっていいこと」と「ダメなこと」とはどんなことですか?
藤田単なる「特定外来生物」と違い、どちらも野外で捕まえて生きたまま持ち帰り、ペットとして飼育できます。ただし、死ぬまで飼育しないといけないんです。どうしても飼えなくなったら、責任をもって飼える人に無償で譲ることは法律違反には当たりませんが、飼う覚悟がないなら、最初から飼育はやめましょう。
やっていけないことは、飼育中に逃がしてしまったり、生きたまま捨てるのはダメです。生きた個体の販売や購入、不特定多数に配ること(頒布)、販売のための繁殖を、外来生物法に基づく許可なく行うことも禁止されています。
――では、川や池でアメリカザリガニとアカミミガメを捕まえて家に持ち帰ったら、死ぬまで自分で飼わなくちゃなんですね!うっかり子どもが持ち帰ってこないように、子どもに言っておかなくちゃですね。藤田ちなみにアメリカザリガニとアカミミガメを家に連れ帰った後で、もう一度捕まえた場所に連れて行って放すのもダメです。飼わないなら、捕まえたその場ですぐに放してください。
――外遊びが好きな子にはよく言っておかなくちゃですね……。
藤田特にアカミミガメは30年以上生きますし、甲長30cm以上にまで育つので大きな水槽が必要になります。「あなたは、適切な飼育環境を用意して、30年間毎日、日光浴や餌やり、水替えがキチンとできますか?」ですよね。
――子どもが大人になってからも、毎日ちゃんとお世話をして飼わなくちゃいけなくなりますね。そこも子どもに伝えなくちゃいけないですね。
――特定外来生物の扱い、とても勉強になりました!よく覚えきらないうちに虫捕りや外遊びに行くのがちょっと心配です……。
藤田大丈夫です。ぜひ怖がらないで、親子で学びながら知って、子どもを自然環境にたくさん触れさせてください。一緒に図鑑やHPを見て学びながら、親子で一緒に虫採りをするのはいいスキンシップの場になります。我が家でも親子で、昆虫採集や磯遊び、たき火を楽しんでいますよ!
虫が大好きで外来生物を「われっち(悪者)」と呼んでいた藤田さんの息子さん。最近、悪者扱いはやめて保育園で覚えた「特定外来生物」という言葉を使うようになりました。
――虫捕りをしていて特定外来生物を見つけたら、色々考えちゃいそうです。
藤田特定外来生物も大切な命をもっていますし、もともと人間に「悪さ」をしようと思って生きているわけではありません。でも、日本の生態系や農林水産業、人の身体・生命を守るために外来生物法に基づき特定外来生物に指定されているんです。
「命の大切さ」と「長い歴史の中で育まれてきた、日本固有の自然と在来種の大切さ」を、どんな風に比較し考え合わせるか。「生き物を殺しちゃダメ」で終わるのではなく、日本の自然を守るために防除が必要な場合もあります。
「親と子どもが一緒に考えること」は、とても大事です。特定外来生物の虫を捕まえたら、どうするのか……捕まえた後すぐに生きたまま逃がすのか、自然環境の事を考えて、かわいそうだけれども、ほかの生きものへの影響を考えて、殺虫するのか。
(外来生物ではないですが)みなさんも、普段から蚊やゴキブリを殺虫していると思います。なぜ殺虫してOKなんでしょう?じゃあ、特定外来生物の虫も、同じように殺虫するのか or しないのか……。そういうことも含め、ぜひ親子で自然の中での遊びを楽しみ、学んで知って、話し合ってみてください。
――子どもが虫好き、生き物好きで一緒に遊んであげたいけれど、親が苦手な場合はどうしたらいいんでしょう。
藤田無理しなくていいですよ!お子さんが昆虫や生きもの好きなら、近所の公園や川辺などでNPOなどがやっている自然観察会や外来生物の防除活動などに一緒に参加してはどうでしょうか。
大事なのは、お子さんの興味を損なわないこと。命の大切さと、外来生物の問題を親子で一緒に考えること。それができたら、最高だと思いますよ!
(取材・文:大崎典子)
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