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アカデミー賞の作品賞(2017年度)ノミネート作品を徹底解説!前編

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映画ファンが毎年注目している、アメリカのアカデミー賞授賞式。今年は2月27日午前(日本時間)に開催されます。今回のコラムでは「作品賞」ノミネートの中から注目の4本を、映画解説者の中井圭さんが2回に分けて紹介してくださいます。前編は、大本命と言われる『ラ・ラ・ランド』と裏の本命『ムーンライト』です。

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目次


後編の2本はこちらからどうぞ

この記事で紹介されている映画の上映時間

  • 『ラ・ラ・ランド』 128分
  • 『ムーンライト』 111分

世界中の映画ファンが見守るオスカー像の行方

2017年2月27日午前(日本時間)より開催される、第89回アカデミー賞授賞式。ハリウッドを中心とした映画の祭典は、世界三大映画祭と言われるカンヌ、ベルリン、ベネチアと比較しても、高い知名度を誇り、世界中の映画ファンがオスカー像の行方を見守っています。

ただ、日本ではアカデミー賞は少し縁遠い部分があります。なぜならノミネートされている多くの作品が、アカデミー賞授賞式時点では日本未公開だからです。作品をよく知らなければ、授賞式を楽しむことも難しいのは仕方のないこと。

そこで、本コラムでは、今回のアカデミー賞授賞式を楽しむために、アカデミー賞授賞式の最後に発表される最高賞的な位置づけとなる作品賞のノミネートの中から、まだ観ていなくても雰囲気が分かるよう、注目作を2回に分けて計4本ご紹介します。

今回は、大本命と言われるミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』と、社会性に加えて、視点の意外性を持ち合わせた映画『ムーンライト』です。

『ラ・ラ・ランド』(13部門14ノミネート)

今回のアカデミー賞作品賞の大本命と言われているのが、この『ラ・ラ・ランド』。

音楽学校の鬼教官と、ドラムを学ぶ生徒による壮絶な意地の張り合いで、世界を騒然とさせた前作『セッション』で注目された新鋭、デイミアン・チャゼル監督の最新作。

自分好みの本物志向の店を持ちたいジャズピアニストの男と、役者として大成したい駆出し女優の恋を描いたミュージカル映画です。おそらくこの映画を観た多くの人が年間ベストテン上位にランクインさせるであろうクオリティに仕上がっています。ジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』をはじめ、『雨に唄えば』『ニューヨーク・ニューヨーク』『巴里のアメリカ人』など、古典の傑作にオマージュを捧げた映画愛に溢れる姿勢だけではなく、夢を見るものが集い、ある者は手に入れ、ある者は失う街、ロサンゼルスに対する愛情も画面いっぱいに満ち溢れているのです。

夢がかなう街ロサンゼルス、つまり“LA LA LAND”に生きる男女の夢と恋の物語は、切なくて愛おしい映画の魔法を、観る者に浴びせてきます。「これこそが映画のよろこびだ」と宣言するかのように、ファーストカットから惜しげもなく見せつけてくるのです。ミュージカル映画は基本的に不利と言われるアカデミー賞作品賞ですが、今回は圧倒的な作品力の前に、有利不利も超えてくるでしょう。

前述の通り、本作はアカデミー会員の愛するハリウッドおよびロサンゼルス賛歌でもあるので、最も作品賞に近い映画と言えるでしょう。嬉しいことに、この大本命が、授賞式の直前の2月24日から日本公開されるので必見です。

『ラ・ラ・ランド』
2017年2月24日(金)TOHOシネマズ みゆき座他全国ロードショー
(C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

『ムーンライト』(8部門ノミネート)

表の本命が『ラ・ラ・ランド』ならば、裏の本命は『ムーンライト』なのは間違いありません。

それもそのはず、この映画は、アカデミー賞が大好物としている深い社会性に加えて、視点の意外性を持ち合わせた傑作なのです。舞台はマイアミ。主人公は、貧困層が暮らす街に生きる黒人の少年シャロン。彼の母親は麻薬中毒でネグレクト。生きる環境として暴力と危険が常に隣り合わせの、ろくでもない街で、シャロンは自身がゲイであることに気付いていくのです。

しかし、この映画は、これまで描かれてきた黒人に対する差別や貧困などを問題提起する作品群とはちょっと違います。非常に静かで穏やかなのです。より正確には、アメリカ社会という大きなうねりの中に佇む、少年個人の抱える孤独と葛藤と諦念を静かに感じさせます。本作の上手さは構成にあります。

少年期、青年期、成人期の3つの時代のある瞬間を切り取り、断片的に描くことで、シャロンがどのように生きてどのように育ってきたのか、行間を観客に想像させるのです。貧困層の一部は、社会の問題より悪事に手を出さざるを得なくて荒ぶっているという現実を見据えながらも、シャロンは穏やかさと愛を求めていきます。そんな彼が直面するいくつもの事件を経て、映画は彼の変化を描いています。時代ごとに彼の目を見つめるたびに、そこに宿る彼の成長と孤独、そして深い悲しみが、スクリーンの中で途切れた時間に彼が経験したであろう、描かれなかった何かを観客に想像させるのです。

本作は、アメリカの問題を切り取った単なる社会派映画、と評することではまとめられません。ひとりの男の静かな情感に満ちた、パーソナルで詩的な年代記なのです。

『ムーンライト』
3月31日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他全国公開
(C)2016 A24 Distribution, LLC



この記事のライター

中井圭

1977年、兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」「WOWOWぷらすと」、シネマトゥデイ×WOWOW「はみだし映画工房」、TOKYO FM「LOVE CONNECTION」「TOKYO FM WORLD」等に出演中。「Numero TOKYO」「CUT」「観ずに死ねるか!」シリーズ、映画広告ポスター等に寄稿。「映画の天才」「偶然の学校」「映活」「ナカメキノ」などの映画関連イベントを企画し、映画普及につとめる。東京国際映画祭をはじめとした様々な映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開している。

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