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6日公開された映画「星の教室」(桜田ひより主演、中川龍太郎監督)を総監督した角川春樹氏(84)が、このほどスポーツ報知のインタビューに応じた。春樹氏は昨年8月、脳こうそくで倒れ、一時は死線をさまようほど症状は重かった。しかし、過酷なリハビリでゆっくり歩けるまでに回復。病魔に襲われたとき、どんな状態だったのか。壮絶な様子を赤裸々に振り返るとともに、後遺症と闘う中で邦画界のレジェンドを“最後の”総監督作品に駆り立てた「ある理由」を語った。(内野 小百美、有野 博幸)
【「助からない可能性の方が強かった」奇跡の復帰】
―1か月前の「星の教室」(高田郁原作)の完成披露。左半身にマヒが残る中、気力での登壇は多くが驚きました。昨夏、脳こうそくになったときの様子を詳しく聞いてもいいでしょうか。
「分かりました。倒れたのは去年8月16日。寝ているときで午前2時ごろ。左半身に力が入らない異変を感じた。別室にいた妻に連絡したくても、できなくて。4時間以上、のたうち回って救急車で運ばれたんですよ」
―倒れる兆候のようなものは何かあったのですか。
「全くの突然ですよ。それまで毎週ボクシングをやり、スポーツジムまで行っていた。さらに木刀まで振っていた。それが一変。いまは歩くことくらいしか、動けることが限られてしまった」
―苦痛の中、病院に運ばれたときの記憶は残っていますか。
「あります。脳をやられているから、掛かりつけのクリニックではダメということで違う病院に運ばれた。着いたら、いろんな人から何度も何度も自分の名前、生年月日を聞かれた。医者からは、もうこのまま死ぬかもしれない。意識自体がなくなって植物状態になる可能性もある、とまで告げられた。家族への遺言のようなものまで言わされたんですよ。つまり、助からない可能性の方が強かった、ということなんですよ」
―最終的にどのような診断だったのですか。
「医者からは、左側はもう永遠に1ミリも動かないんじゃないか、という診断だった。でも150日間リハビリを続け、老人ホームに移ってもやっている。ずっと続けるうちに、だいぶ動くようになったんだ」
―いろんな思いを抱えてのリハビリだと思います。
「書くこと、ひとつにも大きく影響する、ということですよ。左手が思うように動かなければ、右手で文章を書こうとしても、バランスが崩れてうまく書けない。集中できない。だから、いまは物を書くことが苦手になってしまった」
―病気の影響は身体的なものだけですか。
「血で脳が覆われてしまった部分がありますよね。今まで使っていた脳とは違ったものになっているんだ。私の場合、特に感情のコントロールがしづらくなっているのを感じる。意図せず、涙が出てきてしまったり、怒り出す、ということがある。冷静になろうとしても、以前のようにはなかなかできるものではない」
【リハビリで「新しいシナプスが生まれる」】
―しかし、リハビリの度に体は強くなり、変わっていくと思います。
「シナプスだね。ダメージを受けた脳を補てんしようと新しいシナプスが生まれるのが分かるんだ。今回の映画の最後のシーンのセリフも、そんな状態の中、降りてきた。ビジネス面でも似たことが起きている。その代わり、今まで降りてきた俳句の言葉が降りてこなくなった。肩書に冒険家、武道家、宗教家とかあったけれど、体が動かないから肩書は減っていく」
―以前、インタビューしたとき、9歳の時に詠んだという句を教えてもらいました。「魚がこっちを見ている」みたいな内容。その表現力に驚かされたのを覚えています。
「あれは何だったけ。う~ん、なかな思い出せない。後遺症でこういう風になるんですよ。『煙の中 焼かれる秋刀魚 俺を見る』だったな。『煙』は『けむり』じゃなくて『けむ』と詠むんだ。俳人の肩書もやめようと思ったが、一緒にやってきた人たちが全国から集まって私を心配してくれる姿を見て『俳人やめる』とはいえなかったね」
【「いま、中2の息子の存在が生きがい」】
―「星の教室」では、特に親子を描くことにこだわった、とのこと。改めて、ご自身はどんな親子関係だったのか聞かせてください。
「私は父親(角川書店創業者・角川源義氏。75年没、享年58)に愛してもらいたかった、愛されたいという気持ちがずっとあったよ。でも、愛情は少なかったけれど、それをバネに父親ができなかったことを自分でやろう、という思いにさせてくれた」
―いま若い息子さんがおられますが、どんな親子なのですか。
「私と父との関係とは真逆ですよ。いま息子は中2。これまで角川春樹事務所は一代で終わっていい、と思っていた。息子本人のやりたいことを大事にしながら、いまはこの子にバトンタッチしたいと思うようになったんだ」
―それは大病したことも影響していますか。
「そうだな。私→妻→子ども、といまの会社を受け継いでもらいたい。息子はこの前、2日間、TSUTAYAでアルバイトする学習体験の機会があったらしいんだ。それがおもしろかったらしい。その気持ちを聞いてうれしくなってね。引き継ぐことを真剣に考えるようになったんだ」
―中2の息子さんの存在が生きがいとなり、過酷なリハビリにも耐え、この映画が完成したということですか。
「間違いなく、そうだと言えますよ。息子はね、ほとんど私の映画なんか見てませんよ。私の本だって読んでないでしょう。でもそれでいいんです。向こうもいま忙しいみたいで。食事に誘っても断られたりするときは、ちょっと寂しくなるけどな」
【「星の教室」は「あえて見せ場を作らない」 昔の大ヒット作には「あざとさがあった」】
―過去のヒット作のスケールの大きさを思うと、地味な映画という印象を受けます。
「そう。その変化に一番驚いているのが、自分なんだ。例えば『犬神家の一族』なら、2本の足が水面から出ている光景を思い出す人が多いだろ。今回の『星の教室』では、そういうのは一切しないことにした。見せ場をつくらないことにしたんだ」
―見せ場をつくらない? ちょっと理解できませんが。
「そうなんだ。これまでずっと『見せ場』に執着し、強くこだわってきた。しかし、原点ともいえる人間ドラマを描きたい。心からそう思うようになった。病気をして変わったんだ。今回の作品を見て泣いた、という人が多いらしいが、泣かせようとか、そんな思いは一切ないんだ。淡々とノンフィクイション映画を撮るように。演技も日常の延長のようにやろうと。つまり、人間そのものに自分の関心が完全にシフトしてしまったんだな」
―「犬神家の一族」を始め、「人間の証明」「野性の証明」「セーラー服と機関銃」…邦画史残る数え切れないほどのヒット作は社会現象にもなりました。
「50年前に自分のやったメディアミックス。これをいまでやってもダメですよ。通じませんよ。世界には50億をこえるスマートフォンユーザーがいるとされている。昔は口コミ頼りだったのが、いまはSNSの力が圧倒的に強い。映画批評の力も薄れた。テレビの力だってすいぶん落ちているんだから」
―ヒットさせた喜びはあったと思いますが。
「大ヒットはしたかもしれないが、その結果を狙った“あざとさ”があったと思うんだ。今回の映画は、そういうのが全くないんだよ」
【「AIには絶対つくれない映画」】
―先日の完成披露での舞台あいさつでは「この映画はAIとの対決だ」とも話していました。
「つまり、AIというものには命も魂もない。そうですよね。でもいま私が関わっているものは、ほとんどすべて命と魂の世界なんですよ。だから役者、スタッフにも『魂を込めて作ろう、命ある映画にしようじゃないか』と関係者全員に訴えかけて始まり、完成させることができた」
―いま、AIで簡単に実写映画まで作ることができる時代です。
「確かに、原作さえあれば、AIを使ってすぐ映像化できるんですよ。費用も10分の1ほどで。中国では原作をコミック化することもやっていると聞く。映画界は変わっていくでしょう。しかし、今回、AIが絶対に作れない映画をつくることができた、と思っていますよ」
【夜間中学の物語】
◆星の教室 主人公は中学生のとき、いじめが原因で学校に通えなくなり、義務教育を十分受けられないまま大人になった女性。学歴の引け目、生きづらさを抱えながらフリーターをしていた。ある日、さまざまな事情で学ぶ機会のなかった者たちが通う「夜間中学」があることを知り、入る決意をする。年齢も境遇も異なる仲間との出合い、交流を通じ、止まっていた人生が動き始める。
この記事のライター
スポーツ報知
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