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消費や時間に捉われることなくシンプルに暮らす選択のひとつとして提示されている「タイニーハウス(小さな小屋)」。現在の日本では、所有者がそれぞれの場所で使用するにとどまっているが、コミュニティも含めた暮らし体験を目的としたタイニーハウス専用の村「HOMEMADE VILLAGE(ホームメイド ビレッジ)」が八ヶ岳(山梨県北杜市)の麓に誕生した。手掛けたのは、日本におけるタイニーハウス文化の先駆者である竹内友一さん。どんな場所なのか、話を聞いた。
小さい家でエネルギー削減。必要なモノを外にも求めることで暮らしがシンプルになる(写真撮影/嶋崎征弘)
タイニーハウスが広まったのは、2008年の欧米でのリーマンショックを経験して“所有することが豊かである”という価値観に疑問を持つ人が増え、暮らしを見直す動きが起きたことから。やがて日本にも伝わり、最低限の持ち物でシンプルに暮らすミニマリストが話題に。その後、東日本大震災をきっかけに2012年ころからタイニーハウスも注目されるようになった。
このタイニーハウス(小さな家)の日本における伝道師とも言える存在が、株式会社ツリーヘッズを主催する竹内友一さんだ。
竹内友一さん。アメリカ西海岸のタイニーハウス居住者にインタビューしたロードムービーを制作、上映するなど日本のタイニーハウスの先駆者的存在(写真撮影/嶋崎征弘)
木の上の小屋「ツリーハウス」を手がけていた竹内さんが初めてタイニーハウスに触れたのはWEB情報だった。重い心臓病を経て本当にやりたい暮らしを求めた女性がタイニーハウスを選択したというエピソードを目にし、その生き方に強く共鳴したという。すぐさま渡米して話を聞き、2014年には彼女を日本に招いてワークショップを開催。すっかりファンになり、タイニーハウスで暮らすアメリカ西海岸の人々にインタビュー、自主映画制作につながった。それ以来、日本各地での上映会やワークショップでタイニーハウスの普及を行ってきた。
SDGsの広がりも後押しとなり、竹内さんは個人や企業の求めに応じて21棟のタイニーハウスを作成(2022年7月現在)。農場でのダイレクトな自然体験を家族や友人と楽しめる、音楽プロデューサー・小林武史さんプロデュースの「木更津クルックフィールズ」の宿泊用タイニーハウスも、竹内さんの作品だ。
(写真撮影/嶋崎征弘)
HOMEMADE VILLAGE敷地内に置いてある3棟のタイニーハウスは、すべて竹内さんが手掛けたもの(写真撮影/嶋崎征弘)
「小さな家」という概念のもと、タイニーハウスにはさまざまなタイプがある。小屋タイプ、トレーラーで牽引するタイプ、キャンピングカーやバンなども含まれ、最近では、日本でも無印良品やスノーピークなどさまざまな企業が特色を打ち出して提供している。
竹内さんが主に提供しているのは、オーダーメイドで依頼者の理想に寄り添いつつクリーンエネルギーの活用・循環を図る移動型。「アメリカ西海岸で取材したタイニーハウスは、どれも個性的でした。キッチンやシャワーを共同利用できるコモンハウスを中心にしたタイニーハウス用スペースも各地にあって、移動も自由。ゆるやかなコミュニティで繋がるシンプルな暮らしがとても魅力的でした」(竹内さん)
電灯やミニ冷蔵庫、クーラーなどの電気はソーラーパネルでまかなう。屋根に載せると躯体に負担がかかり、駐車場所によっては太陽光を集められないため、日のあたる地面に置くのが最良。移動するときはハウス外付けの収納スペースに収納(写真撮影/嶋崎征弘)
荒地を自ら整えて、タイニーハウス用工場と土地を八ヶ岳に2018年、竹内さんは念願だったタイニーハウス用の工場と土地を八ヶ岳の麓、山梨県北杜市に得た。
「知人から紹介してもらって所有者から譲り受けることができました。もともと植物エキス抽出工場だった建物は崩壊寸前、空き地には木や雑草が繁ったまま。現況取引を条件に、安く買うことができました」と竹内さん。
工場機械などの廃棄や建物リノベーション、土地の整備を自分たちで行うのは予想以上の大変さだった。「土地はタダ同然でしたが、整備や修復にはかなりお金がかかりました」(竹内さん)
(写真撮影/嶋崎征弘)
古い工場を改装したタイニーハウス工場。設計士や職人はプロジェクトごとに仲間に声をかけるのだそう(写真撮影/嶋崎征弘)
ワークショップ開催で課題が見えてきた4年ほど地道な整備を続けて、現物のタイニーハウスを見て学んでもらうワークショップを開催できるようになったのが2019年。
「この場所を『HOMEMADE VILLAGE』と名付けて、タイニーハウスの住民たちが集い手づくりの生活を営む、お手本の場所になることを目指しました」(竹内さん)
(写真撮影/嶋崎征弘)
「ワークショップは好評で、毎回20人くらいが集まってくれました。小さくても暮らすことができそう、小さいからこそインテリアにもこだわれるしエネルギー消費も減らせる、と気に入ってくれる人が多かったです」(竹内さん)
初回参加者からはタイニーハウスをオーダーする人も現れたが、「課題も見えてきました。見るだけではなかなか小さな暮らしに一歩踏み出しにくい。そして、他人とのコミュニティに飛び込むという不安の解消も難しかった」(竹内さん)
そしてコロナ禍。ワークショップの試みは中断せざるを得なかった。
変化に合わせて暮らし方をもっと自由に。タイニーハウスビレッジの広がりを期待一方で、八ヶ岳エリアには都市部からの移住者や2拠点居住者が増加。空き物件が一気になくなり、タイニーハウスへの問い合わせも増えて、その役割も強く感じるようになったのだそう。
「インテリアなどのこだわりを諦めず、そのときどきの自分に合う住居として、タイニーハウスは最良の提案のひとつだと再認識しました」(竹内さん)
「宿泊して暮らしを体験できるようにここをアップデートする」と決意を固めた竹内さん。「外に求められるものは外に求めて小さく暮らす」タイニーハウスの原点を実現するべく、今はモデルハウスとして展示しているタイニーハウスを宿泊用に、事務所で使っている建物はコモンスペースにするため、資金や賛同者を募るクラウドファンディングに挑戦することにしたのだ。
(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
廃材を利用してオールドアメリカンテイストに仕上げたタイニーハウス室内。ロフトに布団を引いて快適に眠ることができる(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
都内在住の女性が暮らしていたタイニーハウス(写真撮影/嶋崎征弘)
家具類は病院の建て替えで不要になったもの。近所の温浴施設を利用できたためシャワーをなくし、その分居住スペースを広くしている。5年ほど住んだ後、今は別住宅に居住。「暮らしの変化に合わせやすいのもタイニーハウスの魅力」と、竹内さん(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
微生物の力で排泄物を分解して堆肥にするコンポストトイレ。災害時にも利用できることから普及が進んでいるという(写真撮影/嶋崎征弘)
こちらは八ヶ岳でのワーケーションを想定したモデルハウス(写真撮影/嶋崎征弘)
高性能の断熱材や木製サッシを使うなど省エネを追求。明るく温かみがある空間だ(写真撮影/嶋崎征弘)
「数日間滞在してもらうことで本当に自分に必要なものがわかってくるはずです。共用のスペースの利用についても、いろいろなアイディアが湧くのではないでしょうか」(竹内さん)
「HOMEMADE VILLAGE」は、あくまで宿泊体験やモデルハウス展示としての場所だ。
「ここでの宿泊体験や勉強会で出会った人たちが仲間になって土地探しを始めたり、事業として考える企業が出てきたり、さまざまなことを期待する場所です。移動可能なタイニーハウスならではの自由な発想で、新たなタイニーハウスビレッジが各地にできることが理想です」(竹内さん)
事務所として利用している建物にはキッチン、シャワー、トイレも完備されている。クラウドファンディングで集まった資金で事務所機能を移転し、ここは宿泊体験者のコモンハウスにする予定(写真撮影/嶋崎征弘)
荒地を開墾して無農薬野菜を栽培。ワークショップでは収穫体験も(写真撮影/嶋崎征弘)
場内で刈った草や生ゴミなどを堆肥化。臭いは全くない。畑があってこそ堆肥が活きる(写真撮影/嶋崎征弘)
(写真撮影/嶋崎征弘)
竹内さんが手がけるタイニーハウスの本体価格は500万円くらいから。一般住宅に比べると安価ではあるが、すぐに決断できる金額でもない。
しかし、タイニーハウスの需要が高まれば基本部分の量産ができ、価格改定に繋がる。「規格化したタイニーハウスの販売を予定しています。家を手づくりしたい人が多いのもワークショップでわかっているので、内装のDIYができる場所としての活用も考えています。宿泊体験中に技術を学べば手づくりパーツできる部分が増える。コスト削減になりますね」(竹内さん)
外寸法で4.5m×2.5m。自動車としての登録が可能なため固定資産税は不要(写真撮影/嶋崎征弘)
「僕も自分の子どもたちが自立したら妻と自分のタイニーハウスを持って住みたいなと思っています。何度も家族に提案しているのですが、『4人は無理!』と今は反対されていて」と笑う竹内さん。
家族構成は変化していく。自分を取り巻く環境も日々変わるなか、そのときどきで最適な暮らしを選べた方がいい。
「仲良くなった友人と離れても、また別の場所に家ごと移動してコミュニティの輪を広げていける、そんなタイニーハウスビレッジを増やしていきたい」
竹内さんの夢も広がっていく。
●取材協力
・株式会社ツリーヘッズ
・HOMEMADE
・simplife
クラウドファンディングのプロジェクト
・タイニーハウスと小さな暮らしを体験できる宿泊施設「Homemade Village」をオープンしたい
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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