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夫婦2人のセルフリノベーションで、築50年の「団地」をポップで明るい、おしゃれな住まいとして蘇らせた様子をブログでつづっているMakees(マーキーズ)さん(30代・男性)。これまでの団地のイメージを覆す45m2の1LDKに、ご夫妻と3歳になる女の子の3人で暮らしています。リノベーションの紆余(うよ)曲折と、その暮らしぶりについてお聞きしました。【連載】狭くても快適に
「家が狭い=理想の暮らしはできない」。そう考えるのが一般的かもしれません。けれどもここで紹介する人たちは、数多くの選択肢のなかから、あえてコンパクトな住まいを選択し、狭くても快適に暮らしています。家族3人+愛犬1匹の4人家族で59平米という狭小スペースに暮らすライフオーガナイザー、さいとうきいが、そのヒミツに迫ります!新築デザイナーズ・マンション vs. 築50年の団地。どっちを選ぶ?
2人暮らしをはじめるにあたり、Makeesさんがあちこち部屋を見てまわっていたのは2013年のこと。最初からセルフリノベーションを前提に物件を探していたわけではありませんでした。
「たまたま身内に『古い団地だけど、好きに改装していいから住んでみない?』と声をかけられたんです。そのときすでに、いいなと思う物件を見つけていたんですが、家賃が半額だと聞いて驚き、そんなに安いんだったら見るだけ見てみようということになりました。内見したら、さらに驚きましたよ。想像以上の古さと薄暗さで(笑)」と話すMakeesさん。
妻のMさんによると、「そのとき借りようとしていた物件は、新築のデザイナーズ・マンションでした。私は実家でも団地住まいだったので、やっとおしゃれな家に住める!って、すごく喜んでいたんです」 それなのになぜ新築のマンションではなく、築50年の団地を選ぶことになったのでしょうか。
Makeesさんは、「確かに内装は傷んでいて、ひどい状態でした。でも部屋に入った瞬間、『イケるかも!』と思ったんです」。どこをどう改修すればいいか、具体的には思い浮かんでいなかったものの、「2人でリノベーションしたら、おもしろそう! やってみたい!」という感情があふれ出てきたそうです。その気持ちが、団地を選ぶ決め手になりました。
デザイナーズ・マンションに後ろ髪を引かれていたMさんですが、最終的にはMakeesさんの熱い思いに引っ張られ、団地への引越しを承諾。物件そのものの古さはさておき、家選びの優先順位 1)四季を感じられる自然の多さ、2)子育て・教育環境のよさ、3)実家のそばにある安心感などがクリアできていたこともポイントでした。
とは言っても、最初はこの部屋で自分たちが快適に暮らせる日がくるなんて想像もつかなかったそうです。それが、Makeesさんと一緒にアイデアを出し合い、ペンキを塗ったり棚をつくったりするうちに、「なんだか楽しくなってきたんです」とMさんは言います。
当時はまだ子どもが生まれていなかったということもあり、平日は仕事が終わってから深夜まで、土日は朝から晩まで、もくもくとリノベーション作業を進めました。もともと、ものづくりは好きだったという2人ですが、ここまで大掛かりなDIYははじめて。にもかかわらず、入居してから約3カ月というスピードでひととおりのリフォームを完了。しかも、電気、水まわりの修繕でプロの手を借りた費用をのぞくと、40万円未満という低予算で、築50年=古いではなく、築50年=ヴィンテージ感を醸し出す、快適な住まいを手に入れることができました。
「ひととおりの作業は3カ月で終わりましたが、細かいところは継続して今もちょこちょこ手を入れています。家は家族とともに育っていくものだと思っているので、わが家のリフォームに終わりはありませんよ」と、Makeesさんは楽しそうです。
まずやってみる!「偶然」と「実験」から生まれる快適な暮らし「計画的に進まないこと」が、セルフリノベーションのむずかしさであり、楽しさでもあると話すMakeesさん。“ふすま“で仕切られた3DKだった間取りを1LDKに変更したのも、計画的に進めたわけではなく「偶然」だったと言います。
Makeesさんは「家中の壁を白いペンキで塗りなおすため、たくさんあったふすまを外したら、なんだか部屋が明るく、広く感じたんです」 その開放感が気に入って、ペンキを塗り終えてもふすまを戻さず、ダイニングキッチン、リビング、隣室をひと続きにして、広々としたLDKのように使うことにしました。「どこにいても家族の気配を感じられるのが、コンパクトな住まいのよさかもしれませんね」
取り払ったのは、部屋を仕切るふすまだけではありません。押入れのふすまも取り外し、オープンシェルフのようにして使っています。これも計画的なものではなく、偶然から生まれたもの。鴨居や柱にペンキを塗るため、ふすまを外してみたら、「このままでいいかも」と感じたそうです。
ふすまがなければ、中に入っているものをワンアクションで出し入れできるうえ、どこになにを収めているかがひと目で分かるため、ものの管理がシンプルになります。押入れの中段をデスクの天板として使うことで、ワークスペースも確保できました。
子どものおもちゃや絵本も、同じ部屋の一角にオープンスタイルで収納しています。最初はDIYでつくった絵本ラックを置いていましたが、おもちゃや絵本が増えると使いづらくなってきたそうです。そこでラックを解体してボックスにつくり替えたところ、収納力がアップしただけでなく、子どもがおもちゃを出し入れするのもスムーズになったと言います。
「まず、やってみる。それから考えるという実験的なアプローチが気軽にできるのは、団地が古いおかげだと思います。新築だったら、壁に穴ひとつ開けるのにも緊張しますよね」
お金では買えない、「古いもの」を蘇らせて一緒に暮らす楽しさ築50年の団地も「古い」かもしれませんが、Makeesさんの家にはほかにもたくさんの「古いもの」がありました。
例えば、壁にかけて見せながら収納しているギターは、ジョージ・ハリスンも愛用していたという、グレッチの「カントリージェントルマン」。1966年製造のヴィンテージモデルですが、飾りではなく“現役”です。音楽が趣味のMakeesさんが20代で手に入れて以来、メンテナンスしながら大事に弾きつづけています。
リビングスペースに置いてある巨大なオーディオセットは、ナショナル・テクニクスの「セパレートステレオ」。見るからに年代物ですが、こちらも“現役”。亡くなった祖母の家にあったものを処分するというので、Makeesさんが引き取りました。
「メーカーでも修理できないと言われたのに、中を開けてあちこち触っていたら動くようになったんです。普段はiPhoneとつなげてスピーカーとして使っていますが、針を交換したのでレコードもかけられるんですよ」
「古いものが好き、一点ものが好き、という性格は学生時代から変わっていないかもしれません。小さな家で暮らしているせいか“ものの切り分け”は得意なほうですが、だからといって最低限のもので暮らしたいとは思っていないんです。暮らしのなかにある、むだや遊びが好きなんでしょうね」
厳選された古いもの、趣味のものがミックスされたMakees邸の独自の世界観は、玄関に足を一歩踏み入れた瞬間からビシビシと伝わってきます。量産された画一的な住まいでは味わえない、世界にたったひとつのスタイルです。
家族みんなで楽しみを共有する場所は「家のなか」だけじゃない45m2の1LDKに、今のところ「狭さ」は感じていないというMakeesさんご夫妻ですが、子どもがもう少し大きくなったら、個室が必要になるのかもしれないと考えているそうです。
団地リノベーションで家づくりの楽しさに目覚めたこともあり、今度は一戸建てでまたその楽しさを満喫したいという気持ちもある様子。昨年、本気で家を探した時期もあったそうですが、最終的に「しばらく引越さない」ということで決着したと言います。
「実はこの夏、4WDを買ったんです。家を買うか車を買うかで迷って、今回は車を選びました」と笑うMakeesさん。大きな4WDに乗って家族でドライブするのは、Mさんの長年の夢でもあったそうです。最近は車で出かける「キャンプ」が、家族の新たな趣味として加わりました。
「リノベーションもすごく楽しいんですが、車を買ったおかげで、夫婦2人だけでなく子どもも一緒に、家族みんなで満喫できる趣味が見つかってよかったと思っています。娘も楽しめるキャンプ場を探したり、道具をそろえたり、最近は家のことよりそっちに夢中なんですよ(笑)」
まだ小さな娘さんを膝にのせ、うれしそうに話す姿を見て、私たちまで幸せな気分に。Makeesさん一家が楽しみを共有する場所は、「家のなか」だけにとどまらないようです。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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