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親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は少し怖いかもしれませんが、小泉八雲の『怪談』から「むじな」を紹介します。とても短いお話ですが、二段構成でしかけのある筋立てとなっており、お子さんもきっと、二度びっくりすることでしょう。
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小泉八雲の代表作とも言える怪談のひとつがこの「むじな」です。むじなとはアナグマやタヌキのことを指しますが、人を化かすと考えられていました。内容としては「のっぺらぼう」の目撃譚となっています。のっぺらぼうといえば妖怪の一種として、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
現在の東京、赤坂への道に紀国坂という坂があり、街頭や人力車の時代より以前は、夜暗くなると非常に寂しいところでした。人々は日没後に紀国坂を通るよりは回り道をしたものです。それは、このあたりをむじながよく歩いたからでした。
ある年をとった商人が、ある晩おそく紀国坂を急いで登って行くと、ただひとりお堀のふちにかがんで、ひどく泣いている女を見かけました。身を投げるのではないかと心配して、商人は足を止めます。女は華奢な上品な人らしく、みなりも綺麗で、髪は良家の若い娘のように結ばれていました。
「お嬢さん、そんなにお泣きなさるな!……何に困っているのですか。私にできることがあれば、よろこんでお助けしますよ」(実際、男は自分の言ったとおりにするつもりでした。この人は非常に親切な人だったのです。)
しかし女は泣き続けます。その長い一方の袖で顔を隠して。
出来るだけやさしく商人は再び声をかけます。
「どうぞ、私の言葉を聴いてください。ここは夜若い御婦人などのいるべき場処ではありません。頼みますから、そう泣かずに。どうしたら少しでもお助けすることができますか。教えてください」
女はおもむろに立ち上がりますが、商人には背中を向けていました。そしてその袖のうしろで泣き続けます。商人はその手を軽く女の肩の上に置いて「お嬢さん、お嬢さん!私の言葉をお聴きなさい」と言いました。
すると、その「お嬢さん」は向き直ってその袖を下に降ろし、手で自分の顔を撫でました。見ると、目も鼻も口もありません――。きゃッと声をあげて商人は逃げ出しました。
\ココがポイント/✅商人が紀国坂を登っていくとお堀のふちに1人で泣いている女性がいた✅商人が泣いている女性に何度声をかけても、顔を隠して泣いていた✅とうとう振り返ると手で自分の顔を撫でた✅その女には目も鼻も口もなかった
商人は一目散に紀国坂をかけ登ります。目の前は真っ暗闇ですが、振り返ってみる勇気もなくて、ただひたすら走りつづけました。ようやく遠くの方に、ほのかに光って見える提灯を見つけて、それに向かっていきました。近づくとそれは、蕎麦屋の屋台の提灯に過ぎないとわかりました。しかしどんな明かりでも、どんな人間の仲間でもかまいません。
商人は蕎麦売りの足下に身を投げ出すと「ああ!ああ!!ああ!!!」と声をあげました。「これ!これ!」と蕎麦屋は叫びます。「どうしたんだ?誰かにやられたのか?」「いや、――誰にもやられたのではない……。ただ……ああ!――ああ!」と商人は息を切らしながら言います。
「ただ脅かされたのか?泥棒にか?」と蕎麦売りはそっけなく尋ねました。「泥棒ではない――泥棒ではない」と喘ぎながら話す商人。
「私は見たのだ……女を見たのだ――お堀の縁で――その女が私に見せたのだ。ああ!何を見せたって、そりゃ言えない……」
「へえ!その見せたものはこんなものだったか?」と蕎麦屋は自分の顔を撫でながら言いました。それと同時に蕎麦売りの顔は卵のようになりました……そして明かりも消えてしまったのです。
(おわり)
\ココがポイント/✅一目散に紀国坂を登った商人はただひたすらに走った✅遠くに明かりが見え、近づくとそれは蕎麦屋の提灯だった✅蕎麦屋は「女が見せたものはこんなものかい?」と顔を撫でた✅蕎麦屋の顔は卵のようになった
一度ばかりか二度もむじなに遭遇する羽目になった商人。お子さんもこの二段構えのお話を聞いて、二回びっくりすることになるでしょう。のっぺらぼうが顔をなでる場面はゆっくりと話すように心がけると、子どもの好奇心をより掻き立てられるのではないでしょうか。
お話の後で子どもに、・おばけが出そうだなと思う場所はどんなところ?・のっぺらぼうがどんな姿をしていたら、つい声をかけてしまいそう?・のっぺらぼうに会ってみたい?
などと聞いてみるのもいいですね。
「むじな」は日本の文化に精通していた小泉八雲ならではの作品でしたね。子どもの性格にもよりますが、怪談独特のトーンで話してあげましょう。また、「むじなって何?」と聞かれた時に答えられるようにしておくのも忘れずに。
(文:千羽智美)
※画像はイメージです
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