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「ポロト湖の懐にひたる、とんがり湯小屋の宿」をテーマとした、北海道にある星野リゾートの温泉旅館「界 ポロト」に、俳優でフォトグラファーの染谷ノエルが訪問。そこでの体験を2回にわたってレポートします。2回目は「イケマと花香の魔除けづくり」や「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」など、ここでしか体験できないアクティビティを紹介。チェックアウト後は、「ウポポイ園内ツアー」への参加がおすすめです。
【アイヌ文化を感じられるご当地部屋や豪華な夕食を紹介した1回目の記事はこちらから】
気持ち良く目覚めた朝は、ロビーで「現代湯治体操」を。深呼吸で心身を整えたらストレッチをして血の巡りを良くしていきます。
北海道に生息する丹頂鶴の動きをイメージした体操は、翼をパタパタする動きや、ヒナから成長した鶴が大きく羽ばたく様子を表現する動きなど、ユニークで分かりやすい内容。
丹頂鶴は、アイヌ語で「サロルンカムイ=湿原の神」と呼ばれているそうです。
現代湯治体操でうっすらと汗をかいたら、そのまま朝風呂するのがおすすめ。体操をして軽くなった体で入浴すると、今日も一日がんばるぞ、と気分爽快です!
界 ポロトの公式サイトをチェック >「界 ポロト」のご当地朝食は、「鮭とじゃがいものすり流し鍋」を中心とした和食膳。窓の外の景色を見ながらいただきます。
自家製豆腐にかける「yayan(ヤヤン)昆布醤油」。「ヤヤン」はアイヌ語で「食用にならない」という意味で、荒波で傷ついた昆布を使っていることから名付けられています。
傷を修復するために昆布自らヌメリを出し、このヌメリに旨味成分が多く含まれているのだそう。醤油を垂らしてみると、色が濃く、とろりとしています。
鮭とじゃがいものすり流し鍋は、アイヌ民族の郷土料理「オハウ」から着想を得た料理です。
オハウはアイヌ民族の主食であり、山菜をベースに動物の肉や魚を入れて煮た鍋料理。鍋のスープは、豆乳と白味噌が入っていて、まろやかな味わい。柔らかく優しい味の鮭のツミレが入っているのも特徴です。
途中でバターを投入して、味の変化を楽しんでいるうちに、どんどん体が芯から温まるのを感じます。
ご当地の文化を体験できる、界ブランドのご当地楽。「界 ポロト」では、魔除けのためのお守りづくり「イケマと花香(かこう)の魔除けづくり」を体験できます。
イケマは、アイヌ民族が魔除けとして日常的に身に着けていた植物で、土のような独特な香りがします。
ご当地楽で使うイケマは、なんと、「界 ポロト」のスタッフが森に行って採ってきたもの!小さな包みの中に入ったイケマと数種類のハーブを、アイヌ文様が描かれた紙を6角形に折りながら包んでいきます。
今回使用したハーブは、コーンフラワー、白樺の葉、カレンデュラの3種類。好みの色や香りで選べます。
最後に、モール温泉と湯上がり処にあるイタドリ茶で染められた糸で封を閉じ、魔除けの完成です。
紙から透けて見えるハーブの色がかわいくてお気に入り。自然のものを使って何かをつくると心が安らぐ気がするし、この魔除けがあれば、この後の旅もきっと安全で楽しいものになりそうな予感がします。
体験する前は、不器用な自分にはちょっとハードルが高いかな?と不安でしたが、実際に体験してみると、スタッフが親切に案内してくれるので安心しながらできました。
独特の節回しや、メロディー、リズムを、伝承者から直接耳で聞いて、真似ながら学び、歌い継ぐという「口承文芸」を実体験できるプログラム「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」。
ロビーにある暖炉前で、アイヌ文化の伝承者である髙橋志保子さんから、アイヌ民族で受け継がれてきた歌「ウポポ」を教わります。宴会の時に歌われる、熊狩りの歌では、志保子さんのパワフルな歌声と参加者の手拍子が、ロビーに響き渡ります。
ウポポには、「ホロルセ」と呼ばれる鳥の鳴き声を模した、舌を震わせて出す声が出てくるのが特徴です。とても大きい音が出て驚くのですが、こんなにも間近で生のホロルセを聞けるなんて、大変貴重な体験です。
アイヌ民族に伝わる楽器「ムックリ」。息を吐いたり吸ったりしながら、ビヨ〜ンという面白い音を奏でます。
途中からは参加者も一緒に歌ったり、踊ったり。教えてくださる志保子さんは、フレンドリーな方で、心温まる時間が流れていきます。
ロビーの暖炉前で、アイヌ民族が大切にしてきた火を囲いながら、ご当地ならではのお酒やおつまみが楽しめる「コタンの宵の集い」。
コタンをイメージしたロビーで暖かい火を囲みながら集えば、火の神様も来てくださる。そんなことを感じながら、アイヌ文化やアイヌ民族の精神性のお話を聞き、アイヌ民族にとって神聖なものであったお酒をありがたくいただきます。
普段は自分の楽しみのためにお酒を飲む人も多いと思いますが、この時は、自然や作り手に感謝し、いただきます、という思いで飲んでみてください。
私は、お酒が強くない人でも飲みやすいというオレンジワインを選択。最初に、グラスを回さずにひと嗅ぎしたら、次はグラスを回して少し長めに嗅ぎます。
一口含んで、口の中全体に広げ舌全体で味わうようにしていただき、アイヌ語で感謝を表す言葉である「ヒンナ」を心の中で口ずさみます。
暖かい火を見ながら、ソファでくつろいでお酒に感謝や祈りを捧げていただく、大人の時間。ノンアルコールドリンクもあるので、お酒が飲めない人や未成年の人でも参加できます。
施設内には全部で500本以上の白樺があるのですが、特に白樺をふんだんに使っているのがロビー。大きな窓があり、日が差すと白樺の影が現れ、息を呑む美しさです。白樺には優しく触れることもできます。
吹き抜け部分には、暖炉を囲むように、ずらりとソファーが並びます。多くのアクティビティの会場となっている場所です。
ソファーに座って目の前のポロト湖を眺めたり、おしゃべりをしたり、本を読んだり、思い思いの時間を過ごせます。まさに「団欒の場」のような居心地の良い空間です。
窓からは、「界 ポロト」のシンボルである、とんがり湯小屋も見えます。
ロビーの奥にあるトラベルライブラリー。アイヌ民族にまつわる本やハーブなどが置いてあります。スタッフおすすめのハーブティーと、それに合う一冊を楽しめます。
ここにも大きな窓があり、雪景色やとんがり湯小屋が見えます。窓の反対側には白樺があり、室内にいながらも自然を存分に感じることができます。
フロント横にあるSHOPでお土産を選べます。
1番人気は、部屋にも置かれている、北海道産ハスカップを使ったお菓子「イヨマンテ」なのだそう。ホワイトチョコレートにバターとハスカップをたっぷり加えたクリームを、クッキーでサンドした贅沢な一品です。しっとりとした食感でバターの風味がふんわりと感じられます。
他にも、湯上がり処でいただけるブレンドティーやアイヌ民族の工芸品など、他では見られないような魅力的なお土産が並びます。
私が特に惹かれたのが、地元の方がひとつひとつ手作業で彫っている作品、木彫りの熊。
それぞれが少しずつ顔が違うので、自分のお気に入りの子を見つけてみてください。手のひらサイズで、コロンとして、少し抜けた感じの表情がとてもかわいいです。
「界 ポロト」での宿泊を楽しんだ後は、隣接する「ウポポイ(⺠族共生象徴空間)」の園内ツアーに参加して、より深くアイヌ文化について学びましょう。
今回は、約3時間半の滞在時間で、アイヌ文化に造詣が深い「界 ポロト」のスタッフが同行してくださり、ウポポイのおすすめの回り方などをご案内いただきました。
施設の説明やおすすめの回り方などを聞いた後に、「アイヌ語カード」をいただきました。スタッフがその人に合わせて選んでくれます。
私は名前がノエル(=フランス語でクリスマス)なので、12月という意味の“チウルプ”と書かれたアイヌ語のカードを選んでくださいました。何だか自分にとって特別な言葉に感じ、アイヌ語が一歩、身近になったような感じがします。
ツアーは、シアタープログラム鑑賞、博物館展示鑑賞、シノッ鑑賞、工房見学、チセ見学など、充実した内容です。「界 ポロト」内にあった、アイヌ文化を感じられる設えやアクティビティと通じるものがあったりして、宿泊体験と重ね合わせながら学ぶことができます。
体験交流ホールにて開催されるシノッ鑑賞では、受け継がれてきた歌や踊り、楽器の演奏などを鑑賞。「界 ポロト」の手業のひとときで体験したウポポの披露があり、実体験と照らし合わせながら、より明確なイメージを掴むことができます。
北海道各地に伝わる鶴を題材にした踊りの一つ「サロルン リㇺセ (鶴の踊り)」では、衣服を上下に羽ばたかせながら舞い、そして手業のひとときで教わった、ホロルセの披露がありました。本物の鶴の鳴き声のような美しい声が、ホールに響き渡り、釘付けに。印象深い演目でした。
チセ見学では、アイヌ民族のチセ(=家屋)が再現されたエリアで、室内見学やアイヌ民族の暮らしや文化について解説するプログラムが行われます。
チセの中には囲炉裏があり、窓があり、宝物があります。しかし、同じアイヌ民族でも地域によって家の造りに違いがあり、方言もあるそうです。火のカムイがいる囲炉裏と、カムイの出入りする窓はチセの中でも大事な箇所とされています。
お話を聞いた後にはムックリの演奏、子守唄や「クリムセ」という弓の踊りの披露があるのですが、子守唄を披露してくださったのは、「界 ポロト」の「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」で講師をしてくださった志保子さん!
フレンドリーに手を振ってくださいました。チセが再現された空間で歌を聞くのは、昨晩とは違う味わいがあります。
ツアー参加者には、「界 ポロト」とウポポイ両施設のフォトスポットで撮影した記念アルバムのプレゼントも。こういったサービスを受けたのは、これまで訪れた界の施設の中でも初めてだったので、いい思い出になりました。
また、このツアーでたくさん触れることができたアイヌ語を忘れたくない、と思い、お土産コーナーでアイヌ語の絵本を購入しました。絵はかわいらしく、文字は優しい色でアイヌ語と日本語の両方で書かれていて、大変素敵なお土産となりました。
「界 ポロト」に宿泊すると、至るところでアイヌ文化を感じ、そのおかげで知識が増え、アイヌ文化が身近な存在になっていることに気づきます。本当に“さりげなく”私たちに教えてくれ、体験させてくれます。ご当地部屋や湯小屋、食事、景色、アクティビティなど随所にアイヌ文化が散りばめられているので、ぜひ感じて欲しいです。
私は今回の旅を通じて、小学生の時にアイヌ文化についてグループワークをした記憶や、どこかでアイヌ民族の踊りを見た過去が蘇ってきました。あの時見た踊りを、今また体験している。なるほど、この踊りにはこういう意味があったのか、と過去の記憶と繋がっていったのです。“触れておく”ことの大切さを実感できた旅でした。
「界 ポロト」で、美しいポロト湖を見ながらアイヌ文化に触れる。心に残る体験となるのではないでしょうか。まずは肩肘を張らずに訪れてみる、文化や歴史に触れてみる、が大事だと思います。それがもう、学ぶことへの第一歩になっているはずです。
界 ポロトの予約はこちらから! ><住所>〒059-0902 北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
<TEL>050-3134-8092(9:30〜18:00)
<駐車場>あり
<車>道央自動車道「白老IC」から約6分
<電車>JR北海道「JR白老駅(北口)」から徒歩で約10分
※この記事は2024年1月の取材内容に基づき執筆されています。時期により、イベントや食事などの内容が変更になっている可能性があります。詳細は「界 ポロト」にお問い合わせください。
星野リゾートの温泉旅館「界」をチェック >染谷ノエル(Noel Someya) / 俳優・フォトグラファー
東京都出身。演劇を学ぶため中学卒業後に単身渡英し、ノーサンプトンのBosworth Independent Collegeなどに通う。4年半後に帰国、上智大学にて英文学を専攻。在学中より劇団、東京ジャンクZに所属、舞台俳優のキャリアは15年目を迎える(2023年時点)。写真は留学中、"Photography"の授業がきっかけで本格的に取り組むようになった。旅や日常をドラマチックに切り取る表現を得意とし、雑誌やWEBメディアなどでの作品掲載多数。 撮影、執筆、被写体の三役をこなすキャリアを活かし、取材、連載などでも活躍する。
Twitter: @noel_engeki
Instagram: @noelle.s12
STAFF
Photo&Writing:Noel Someya
Edit:michill編集部
この記事のライター
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